私は、以前のブログ記事に次のように書いた。
『何を隠そう、S弁護士は潜水艦が好きである。古くはヴェルヌの小説「海底2万里」、小さい頃に父親と見た映画「眼下の敵」では、ドイツ軍Uボートとアメリカ駆逐艦の死闘に胸を躍らせ、トム・クランシーの「レッドオクトーバーを追え」、福井晴敏の「終戦のローレライ」などの潜水艦小説を読み、かわぐちかいじの漫画「沈黙の艦隊」を全巻大人買いした経歴からすれば、原潜に乗れるなんてテンション上がることこの上ない。』(アーカイブス。S弁護士シリーズ、日中韓FTAシンポジウム旅日記~その9参照)
その後、私はチンタオの中国海軍博物館で、攻撃型原潜長征一号に、追加料金を支払って見学乗船することになるのだが、ミリオタではないので、誤解されぬよう。
さて、先日読んだ吉村昭の「深海の使者」は、太平洋戦争中、同盟国ドイツとの連絡路を求めて、日本軍潜水艦が大西洋に数次にわたって潜入した、苦闘を描いた作品である。レーダー等の最新技術を日本が求める一方、ドイツが南方資源を求めていたことなども描かれている。
吉村昭の小説は、実に淡々と記述が進む。
登場人物の感情を表す表現が、通常の小説に比べて、極端に少なく感じる。
しかし、その記述の裏には、綿密な取材に裏打ちされた、潜水艦乗り達の決死の、全力を尽くしての苦闘ぶりが透けて見えるのだ。
淡々とした記載が続くだけに、逆に、なお、実際の苦闘ぶりが想像され、胸が苦しくなる場面も多くあった。
戦艦や航空母艦のような華々しい活躍ではない。
しかし、日本のために死力を尽くして戦った人たちに向けられた小説である。
機会があれば手に取って頂きたい。
(文春文庫 740円+税)