日弁連法曹人口検証本部取りまとめ案の偏向

 各単位会に意見照会をした結果、相当数の単位会が反対するなどしたため、再度内容を訂正していた日弁連法曹人口検証本部だが、やはり司法試験合格者1500人を維持する方向での声明(現時点では合格者を減員する理由はないとする声明)を出したいようだ。


 結論を導く理由について読んでみると、まあ偏った判断が並んでいる。自分達の声明に不利な方向の根拠は理由がないとか確認できないとかの理由で切り捨てながら、自分達の声明に有利な方向の根拠は推測だろうと何だろうと取り入れていく。

 特に客観的な資料の引用に、偏向を感じる部分が明確に出る。

 例えば、検証本部は、裁判所が新たに受けた事件数(新受件数)に関して、概ね「地裁民事通常訴訟事件の新受件数自体は微増にとどまり,裁判関係業務の業務量に大きな変化はうかがわれない。」と評価しているようである。

 しかし客観的データから見ると、民事通常事件は微増もしていないし、家事事件を除き裁判関係業務は大幅に減少している。

 最高裁事務総局が編集している「裁判所データブック2021」によると、地裁民事通常訴訟事件の新受件数について10年前である平成23年と令和2年で比較すれば次のとおりである。
 平成23年 地裁民事通常事件新受件数  196,366件
 令和2年  地裁民事通常事件新受件数  133,427件(▲32.05%)

 つまり、客観的な資料から、10年前と比較して30%以上も減少している新受件数を、検証本部は微増と評価しているのである。

 百歩譲って、検証本部が日弁連の2012年(平成24年)提言後の事情に限定して検討をしていると仮定しても、
 平成24年 地裁民事通常事件新受件数  161,313件
 令和2年  地裁民事通常事件新受件数  133,427件(▲17.29%)
 であって、地裁民事通常事件の新受件数は、どこをどう見ても大幅に減少しているのであって微増などではない。

 このように、前述の検証本部のこの部分に関する記載は完全な虚偽である。小学生でも分かる欺瞞を、検証本部は平気で行っているというほかない。

 ところで、弁護士の業務量を推定するのに様々な資料は考え得るが、弁護士の業務量は基本的には法的紛争の量が反映されるから、最も客観的で信頼できる資料は、どれだけの事件が裁判所に持ち込まれたかであると考えられる。

 前記の民事通常事件だけではなく、民事行政を併せた新受件数、刑事事件新受件数(人)、家事事件新受件数、少年事件新受件数(人)を10年前と比較すると、次のとおりである。

民事・行政事件 1,985,302件 →1,350,254件(▲31.99%)
刑事事件    1,105,829人 →  852,267人(▲22.93%)
家事事件      815,524件 →1,105,407件(+35.55%)
少年事件      153,128件 →   52,765件(▲65.54%)
合計      4,059,783件 →3,360,756件(▲17.22%)
※合計は、全裁判所に持ち込まれる全新受件数である。

 裁判所に持ち込まれる件数が、10年前と比較して約2割弱も減少している客観的データがあり、そしてここ10年で弁護士数が1万人以上増加している現状がある。

 単純に、裁判所全新受件数を当時の弁護士数に割り当ててみると、10年前の弁護士数は約30,000人、令和2年の弁護士数は約42,000人なので、
 平成24年:4,059,783÷30,000≑135.33(件)
 令和2年 :3,360,756÷42,000≑80.02(件)

 つまり裁判所に持ち込まれる事件数を弁護士数で割ってみた数値は10年前と比較してなんと40.87%も減少している。

 客観的データがあるにも関わらず、検証本部の取りまとめは、弁護士の裁判関係の業務量に大きな変化は見られないと断言しているのだ。

 少なくとも裁判所データブックのような客観的データがありながら、その評価として、弁護士の裁判関係業務量に変化がないと断言する奴は、客観的に見て、データを理解できない阿呆か、ある方向の結論を出すため偏向しているとしか言いようがないことは、ご理解頂けるだろう。

 検証本部で真剣に議論された先生方には、大変ご苦労なさったと思われるが、本部のとりまとめがこのような欺瞞に満ちた内容になるのでは、何のために時間と労力を費やしたのかと徒労感も大きいところだろう。

 検証本部のとりまとめを行う立場の委員に申し上げる。
 偏向するな!

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