令和3年度 司法試験合格者決定についての雑感~2

(続き)

 平成89年度の憲法第1問は、平等原理について述べた論文を用いて平等について考えさせる内容の問題であり、きちんと自らの憲法に関する知識を下に論文の内容を把握し、しっかり考えて適切な内容の言葉を当てはめていかないと、答えが出せない(しかも空欄が12であるのに、空欄の候補は15挙げられており、本当に適切な言葉を選択しないと正解に到達できない。)。

 これに対し、令和3年度の憲法第1問は、選択肢だけ見れば数が多くて解答しにくいようにも見えるが、要するに最高裁判例の動向を知っていさえすれば解答が可能である。つまり、最高裁判例の結論の暗記ができてさえいれば解答可能であり、思考力は不要である。

 そればかりか、実際の権利制約が最高裁判例に反して行われているはずがないから、実際の権利制約について常識的に考えればそれだけで解答可能だ。

 例えばアについては、逮捕・勾留という制度があり、身柄拘束された者は留置場や拘置所等に入ることは常識である。そして、そこで身柄拘束された者が自由自在に行動できるはずがない。このことは常識としてすぐに分かる。
 イについても、一般社会でも喫煙可能な場所は限定されてきているのだし、特に刑務所ともなれば喫煙の自由がないだろうということは常識的にも判断可能である。
 ウについては、裁判官に中立・公正な裁判が強く期待されると書いておきながら、一般公務員より政治的行為の禁止要請は低い、と選択肢自体が矛盾している内容ともいえ、常識で誤りと判断可能である。

 このように、短答式試験は旧司法試験時代と比較して相当簡単になっているのである。

 旧司法試験時代は、現在より難しい内容の短答式試験であったにも関わらず、短答式試験の合格点は概ね75~80%であり、4~5人に1人しか合格しなかった。そして短答式試験に合格した者だけで争う論文式試験でさらに6~7人に1人に絞られたのである。

 ところが、問題が簡単になっていながら、令和3年の短答式試験は得点率56.7%でも合格できる。受験者平均点よりも18点少なくても合格するのだ。確かに論文式試験と引き続いて実施されるという不利な状況もあるが、問題が簡単になっており、実務家を目指す以上、やはり7.5~8割は得点しておいてもらいたいところだ。

 そして、令和3年度、短答式試験の合格者2672人中、最終合格したのは1421名である。短答式試験合格者だけで見た最終合格率は53.2%である。上記のように問題自体が簡単になり、しかも平均点を大幅に下回っても合格できる短答式試験を通過できれば、2人に1人以上が司法試験に最終合格できてしまうのである。

 最終合格者の総合点での合格最低点は755点(法務省発表)である。これだけ見ればフ~ンと思われるだけかもしれないが、受験者全員の総合点の平均点は794.07点(法務省発表)であることを知れば、事態の重大さがお分かりになると思う。

 要するに、総合点で受験生平均点を約40点下回っている受験生も最終合格しているのである。

 1421人以上合格させるとなれば、さらにレベルの低い受験生を合格させなければならない。

 いくら閣議決定があろうと、閣議決定が法律に優先することはできない。司法試験法1条からすれば、本来もっと合格者が少なくてもおかしくはないと私は思っている。

(この項終わり)

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