令和3年度 司法試験合格者決定についての雑感~1

 令和3年度司法試験の最終合格者は1421名だった。

 内閣が閣議決定で合格者1500名程度を指摘していたにもかかわらず、1421名の合格者に留まったのは、どれだけ合格レベルを落として甘くしても1421名を合格させるのが精一杯であり、受験生の答案のレベルから見れば、とてもではないが1500名も合格させることはできないと判断した、というのがおそらく真実だろうと思われる。

 司法試験法1条1項には、「司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする。」と明記されていることから、いくら閣議決定で1500名程度の合格を期待されていても、司法試験委員会は上記の司法試験の目的に鑑み、1421名しか合格させることができなかったのだろう。

 まずは短答式試験から見てみる。

 短答式試験の受験者数     3424名
 短答式試験合格者       2272名
 短答式試験平均点       117.3点(175点満点)
 短答式試験合格最低点      99点(法務省発表より)

 法科大学院ルートの受験生数 3024名 合格者数2272名(合格率75.1%)
 予備試験ルートの受験生数   400名 合格者数400名(合格率100%)

 そもそも、受験者の平均点よりも18点も得点が低くても合格できてしまう試験がどれほどの選別能力を持っているか疑問であるが、なんと予備試験ルートの受験生の短答式合格率は100%なのである。

 予備試験は、法科大学院の過程を終了した者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的としている(司法試験法5条1項)。したがって、予備試験の合格者は、法務省が想定する法科大学院卒業レベルの実力をもつ者である。

 そうだとすれば、予備試験ルートの受験生と法科大学院卒業ルートの受験生の司法試験短答式合格率は近似していなければおかしい。
 ところが、予備試験ルートの受験生が400名全員合格する短答式試験で、法科大学院ルートの受験生は25%も落ちるのである。

 この事実一つから見ても、法科大学院が厳格な修了認定を行っていないことが丸わかりである。

 また、以前もブログで指摘しているが、司法試験考査委員会は、短答式試験について、平成25年から

「その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わない」

との申し合わせ事項を公表し、短答式試験を基礎的問題に限定する、要するに簡単にすると明言している。

 この点、受験生のレベルが上がっているから、司法試験短答式合格者のレベルも決して低くなっていないはずだとの意見もあるが、残念ながら私はそうは思わない。

 法務省HPで入手可能な最も古い平成8年平成9年(旧)司法試験短答式問題と令和3年の司法試験短答式問題を比較してみよう。

平成89年度 司法試験短答式問題
憲法
(坂野注:配点は1点。憲民刑で各20問(合計60問)出題される。)

〔No. 1〕次の文章は,平等原理について論じたものであるが,( A )から( L )に下記のアからタまでの語句を挿入した場合,後記1から5までのうちで正しい組合せとなっているものはどれか。

 「自由と( A )に示される自由放任政策は,19世紀において,社会経済生活における自由競争を力づけ,資本主義の発展と高度化を促したが,他方,富の偏在,( B )などの重大な社会問題を引き起こした。「すべての者に等しく自由を」という市民国家の権利保障は,各人の事実上の不平等を問題にしなかった。( C )は,権利主体や当事者の経済的・社会的地位を考慮しない抽象的普遍性の外観のもとで,現実には,資本制社会の矛盾を激化させたのである。市民社会がその矛盾を自ら克服することができない状態は,市民社会が自律性を失ったことを意味し,その存立と補強のための国家の介入が必要となったことを意味する。( D )ではなく,生存に対する脅威から個人を解放し,人間に値する生活を各人に保障することが国家の任務となった。市民法の体系からはみだす( E )が形成せられ,所有権の絶対性と契約の自由の制限を手段とする( F )へと国家機能の転換がみられるのである。20世紀の憲法に登場する( G )と一連の( H )はこのような事情を基本権の内容に反映させるものである。平等の観点からみた場合,この国家機能の変化は,平等の意味を形式的なものから実質的なものへと転換させることを意味し,( I )の理念を思想的根拠としている。
 平等は,はじめは自由主義の原理であったが,ついで( J )の原理になる。国民主権の下においては,法律は国民全体の意思の表現であり,国民の自治が実現するのであるが,国民の平等な政治参加がその前提条件となる。政治の領域における平等も,( K )を排除したほかは,市民の立場からみた国家に対する貢献の資格と能力に応じた相対的な意味のものであった。財産・性別等を理由とする( L )から出発したのはそのためである。しかし,政治の領域においても,各市民を正当に遇するために必要と考えられてきた伝統的な区別の要素が,国民の政治的統合にとり本質的なものでないことが明らかになり,政治的権利の絶対的平等化が志向されるに至った。19世紀後半から20世紀初頭にかけて進行する普通選挙,婦人参政,選挙年齢の引き下げは,徹底した平等主義の方向を歩んでいる。」


ア 労働者の有産階級化  イ 労働立法や経済統制立法 ウ 国家権力による解放  
エ 財産権の相対化    オ 財産の不可侵      カ 労働者の貧困,失業
キ 民主主義 ク 国家権力からの解放  ケ 社会国家ないし福祉国家  コ 社会的基本権
サ 配分的正義 シ 資本主義社会  ス 封建的特権  セ 不平等・制限選挙
ソ 所有権の自由と契約の自由 タ 平均的正義

1.(A)オ,(D)ウ,(F)ケ,(I)タ,(K)ス
2.(B)カ,(E)イ,(G)ア,(J)シ,(L)セ
3.(A)オ,(C)ソ,(F)ケ,(H)コ,(K)ス
4.(B)カ,(D)ウ,(G)ア,(I)サ,(L)セ
5.(A)オ,(C)ソ,(E)イ,(H)コ,(J)シ

※10月7日訂正後記 大変申し訳ありません。これは平成9年の短答式試験問題憲法第1問でした。お詫びして訂正致します。

令和3年度 司法試験短答式問題
憲法

[憲法] 〔第1問〕 (配点:2)
 公務員や未決拘禁者など,公権力との関係で特別な法律関係にある者の権利制約に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所の判例の趣旨に照らして,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[No.1])

ア.多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設では,施設内でこれらの者を集団として管理するに当たり,内部の規律及び秩序を維持し,その正常な状態を保持する必要があるから,この目的のため必要がある場合には,未決拘禁者についても,身体の自由やその他の行為の自由に一定の制限が加えられることはやむを得ない。
イ.刑事収容施設内において喫煙を許すことにより,罪証隠滅のおそれがあり,また火災発生により被拘禁者の逃走や人道上の重大事態の発生も予想される一方,たばこは生活必需品とまではいえず嗜好品にすぎないことからすれば,喫煙の自由が憲法の保障する人権に含まれるとしても,制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容,これに加えられる具体的制限の態様とを総合的に考慮すると,施設内における喫煙禁止は必要かつ合理的なものといえる。
ウ.職権行使の独立が保障され,単独で又は合議体の一員として司法権を行使する主体として,国に対する訴訟を含めて中立・公正な立場から裁判を行うことが強く期待される裁判官に対する政治運動禁止の要請は,議会制民主主義の政治過程を経て決定された政策を,政治的偏向を排し組織の一員として忠実に遂行すべき立場にある一般職の国家公務員に対する政治的行為の禁止の要請ほどには強くないというべきである。
1.ア○ イ○ ウ○  2.ア○ イ○ ウ×  3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ×  5.ア× イ○ ウ○  6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○  8.ア× イ× ウ×

(続く)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です