まさかとは思うけど

 日弁連が、女性の日弁連執行部への参加を推進するために、クォータ制による女性副会長の席を2つ設けていることは、ご存知のことと思う。

 私は相当前から日弁連代議員も務めているから、クォータ制が導入されてからの日弁連代議員会(副会長等を選ぶ会議)にも全て参加しているが、私の知る限り、クォータ制の日弁連女性副会長は、主流派が押さえている弁連等から推薦された方がこれまでずっと就任してきているはずだ。

 日弁連執行部への女性参加をより強力に推進するためであれば、弁連等で推薦されるのを待っている受動的な方よりも、意欲を持って能動的に参加を希望する方、つまり自ら立候補された方を優先すべきであるのが素直だと思う。

 しかも、立候補するには相当数の弁護士の推薦が必要であり、その推薦を自力で集めなければならないという高いハードルも設定されているので、なおさら立候補するためには強い意欲と行動力がないと困難なのである。

 ところが、今年も日弁連は立候補した女性弁護士をクォータ制副会長に選出しないと判断したそうだ。

 先日もご紹介した、武本夕香子先生のことである。

 武本先生は、長年、伊丹市、尼崎市及び芦屋市において、女性のための専門法律相談員を務めてこられた。しかも、上記各市における男女共同参画推進審議会委員等を務め、男女共同参画問題についても取り組んできている。武本先生の依頼者の9割近くが女性で占められており、弁護士業務においても、市井の女性の人権擁護の活動に取り組んでこられた。さらにこれまで、6名の女性弁護士を雇用する等しており、近年の女性弁護士の置かれている状況等についても深い理解があることから、クォータ制副会長候補者に適している。兵庫県弁護士会の会長経験もある。
 しかも、今回の立候補においては、短期間で全国から500名以上の弁護士の推薦を得ており、人望も篤い。

 そうであるにもかかわらず、日弁連のクォータ制副会長を選ぶ委員会は、武本先生を落選させたようだ。

 理由を聞いても、日弁連執行部は、どうせ、総合的な判断の上であるとか、人事に関する事項だから回答を差し控えるなどと言って、武本先生の落選理由をまともに説明しないだろう。

 しかし、武本先生程の経歴と資質と行動力と人望を持ちながら、クォータ制副会長に相応しくないというのであれば、逆に言えば、クォータ制副会長に相応しいといえる人物には武本先生を超越するだけの経歴と資質と行動力と人望が必要ということになる。

 殆どスーパーウーマンでなければ、そのハードルは越えられない。そうだとすれば、クォータ制副会長に適する候補者はごく僅かの女性弁護士に絞られてしまうだろう。

 要するに日弁連執行部は、武本先生を落選させる以上、武本先生以上のスーパーウーマンをクォータ制副会長にもってこなければ、理屈に合わないことになる。

日弁連執行部からすれば武本先生を落選させたのは、大人の事情なのかもしれないが、私はそういうのは大嫌いなので敢えて日弁連の本心を推察して言ってやると、「日弁連はクォータ制の副会長であっても、主流派執行部に従順な女性副会長を希望している。」ということなのではないか。

 より分かりやすく言えば、女性の視点を取り入れるためにクォータ制の女性副会長制度を設ける、但し、執行部の意向に従順な女性弁護士に限る、ということなのではないだろうか。

 この私の推測が正しければ、日弁連執行部の意向に従順という条件が、女性の意見を取り入れるという本来の目的よりも上位に存在することになりそうだ。女性に従順を強いるのは、男女共同参画から最も遠いような気もするが、どうも日弁連執行部はそのように考えているとしか思えないのだ。

 クォータ制女性副会長制度は、制度としては、やむを得ないのかもしれないが、現状の執行部のように、執行部に従順という見えない条件が絡まっているのだとしたら、それは女性参加に名を借りた執行部の地盤固めにすぎない。

 まさかとは思うが、仮に私の推測が万一、正鵠を射ていたとしたら、日弁連とはなんと器の小さい組織なのであろうかと、嘆息を禁じ得ない。

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