今からでも間に合う(かもしれない)司法試験サプリ(8)~試験全般について1

※背伸びするな

 試験では、つい、自分を実力以上に見せたくなるものだが、背伸びはすぐにばれるものと思っておいたほうがよい。実力以上の背伸びは、必ずどこかに無理が出るものだからだ。特に解答に関係のない論点まで書きたくなる思いは、(本当に実力がない場合もあるだろうが)実力以上に自分を飾ろうとする気持ちが強い場合に生じやすいものだ。

 採点者は当代一流の学者であり実務家なのだ。たかが受験生の背伸びなど、どう隠してみても、先刻お見通しである。

 無理して背伸びするよりも、ありのままの自分で勝負したほうが、間違いなく冷静に戦いやすいし、その後のあなたにとっても意味があるように思う。

 万が一、背伸び作戦が功を奏して、勉強不足のまま合格して資格を取得できたとしても、勉強不足が原因で大きな弁護過誤を起こし、せっかく手に入れた資格を懲戒処分によって失うかもしれないのだ。その場合に傷つくのは、自分だけではすまない。あなたに依頼した依頼者も大きな被害を受けてしまうのだ。

 先だって、若い弁護士さんが、法定果実と天然果実の区別がついていない訴状を出してきたため、第一回口頭弁論期日に訂正したらどうかと条文まで示して指摘したのに、こちらの指摘した意味すら理解してもらえなかった、という悲しい経験をした。
 通常の依頼者は法律的にはど素人だから、正直言えば、書面の良し悪しなど分かりはしない。勉強不足の弁護士の書いた適当な書面でも、弁護士先生が書かれた書面だから優れたものに違いないと誤解しているだろう。
 依頼者の誤解に乗じて勉強不足の書面を提出して平気な顔をしている弁護士になるくらいなら、もう一年しっかり勉強してもらったほうが、よっぽど世のため、人のため、自分のためだ。

 どうやら愚痴っぽくなってしまったが、結論的には、

 「私の持てる知識と能力を総動員して妥当な解決を目指しました。その結果がこの答案です。私はこれ以上でもこれ以下でもありません。この答案で実力不足と仰られるのであれば、私の勉強不足なので仕方ありません。ただ私は、良き法曹になろうと強く願っており、努力してきました。もし合格させていただいた暁には、きっとさらに努力を重ね、良き法曹になり社会に貢献することをお約束します。」

 という気持ちで臨めれば、おおむね心構えとしてはベストに近いのではないだろうか。

※妥当な解決を目指せ

 最近の若い(年齢ではなく経験が浅いという意味)弁護士さんの書面を見ると、喧嘩上等!とばかりに、とにかく攻撃的な書面を書けばよいと勘違いしているような内容の書面が、実は少なくない。

 事案から見て、和解が一番いい場合も当然あるし、そのような場合には将来的にはお互い譲歩しあって解決する必要がある。したがって、妙に攻撃的な書面で相手方をぶんなぐってしまうことは、相手方の機嫌を当然損ねることにつながり、和解による解決に向けてはマイナスにしか働かない。

 弁護士は、紛争解決のお役に立つのが仕事なのに、喧嘩を吹っかけて、紛争拡大をしてしまってどうする!責任をお前が取れるのか?と相手の弁護士を怒鳴りつけたくなるときも、実はあったりする。

 私の愚痴はそれくらいにしておいて、法律家は紛争解決のお手伝いをするお仕事なのだから、目指すのは当然、できるだけ妥当な結論ということになる。

 これは、司法試験でも全く変わるところはない。

 特に、試験委員を務めるような一流の実務家は、無駄に紛争を大きくすることなく、スマートに解決・終了させる術に長けている方が多いと思われるので、ますます常識的に見て妥当な結論を示すことは大事だというべきだろう。

 非常識な結論で満足している受験生を、法曹の仲間として迎え入れたいと思う試験委員はまずいないだろうと思われるからだ。

※判例は思っているよりも大事

 これも採点実感でよく指摘されているところだが、判例への言及が少ない・誤っている等の問題がある。

 実務は、ほぼ判例で動いている面もあるので、採点者が考える判例の重要性は、受験生の意識と違って、相当高いものと思ってもらっていい。訴訟において判例と異なる学説を引用し、それがどれだけ有名な学者の有力説であったとしても、裁判所からあっさりと「独自の見解」として退けられる例は後を絶たない。

 司法試験でも、採点者はこいつは実務家の卵として適当か?を判断しようとしているのだから、答案に正確な判例の知識を織り込めるに越したことはない。

 ただしここでも、正確な判例の知識が求められていることに注意しなければならない。

 超重要基本判例について、答案に書いていない場合と、答案に書いているが誤っている場合とを比較すれば、おそらく後者のほうがダメージは大きい可能性はあるだろう。少なくとも、後者は、超重要基本判例についてすら誤って勉強していることが明かになってしまっているからである。

 判例の紹介については、重要判例について行うべきであることは間違いないのだが、正確な知識であるかを確認の上、よくよく吟味して行う必要がある。

(続く)

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