平成29年度司法試験採点実感から~公法系1

 そういえば、H29年度司法試験採点実感について、コメントをしていなかったことを思い出した。もうじき、H30年度の採点実感が出されると思うが、基本科目についてだけでも、一応検討しておこうと思う。

(公法系第1問:→以下は坂野の雑駁な感想です。)

☆問題文には,検討すべき点について,ヒントとなる記述が多々あるにもかかわらず(例えば,立法経過に関する議論から,妊娠等の自由の制限と収容の点が大きなテーマであることに気付くべきであろう。),これに言及していない答案があった。また,問題文に書かれている前提を誤解していると思われる答案もあった。まずは,問題文をしっかり読んで,その内容を理解することが重要である。

→何らかの意図があって問題文が設定されている以上、問題文に無意味な記載はほぼないと考えるべきです。問題文の前提を誤解しているなどはもはや論外。問題の前提を誤解している人が法曹になったとしたら恐怖です。

☆被侵害利益を適切に示さないもの,違憲審査基準を示さないものが散見されるとともに,違憲審査基準を一応示していてもそれを採用する理由が十分でないものが一定程度見られた。

→被侵害利益を明確にしなければ適切な違憲審査基準は選択できないでしょう。また、ある違憲審査基準をとる以上、それを採用する理由を明確にしなくてはなりません。理由もなく勝手な都合で違憲審査基準が選択されたら、困るでしょう。

☆本問において違憲を主張するとすればその瑕疵は法律にあるのであり,また,問題文に「Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして」と記載されていて,法令違憲を検討すべきことが示されているのに,適用違憲を詳細に論ずるものがあった。繰り返しにはなるが,問題文はしっかり読んでほしい。

→おそらく法令違憲と適用違憲との区別すら分かっていない受験生が解答した可能性があるということ。この区別が出来ていない受験生がいるということは以前も指摘されていたが、法曹になる資格どころか、法科大学院を卒業させてはいけないレベル。

☆外国人の人権享有主体性について全く触れない答案が散見された。マクリーン事件判決を意識したものも,マクリーン事件判決について,単純に権利性質説を説いた部分しか参照できていない答案が多かった。

→超基本判例のマクリーン事件を教えていない法科大学院はないと思うので(あったらそれこそが大問題)、外国人の人権共有主体性を書き落とすとすれば、やはり法科大学院を卒業させてはいけないレベルと考えられます。

☆本問では,単純な権利性質説の論述では不十分であり,マクリーン事件判決の「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は,右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない。」「在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。」という論理とどのように向き合うのかということが問われている。このことが意識されない答案が予想したより多かったことは遺憾であった。

→司法試験委員が想定し、論じて欲しかったレベルの議論まで、多くの答案が到達できなかったということ。そしてそのような答案が、司法試験委員の想定以上に多数に上ったため、受験生のレベルが極めて危険な状況にあるということが、「遺憾」という悲痛な言葉に、込められているように感じられます。

☆権利性質説に関する論証も不十分なものが少なくなかった。例えば,「妊娠・出産の自由も,権利の性質上外国人にも保障される。」としか記載していないものが見られたが,妊娠・出産の自由がどのような性質の権利なのかを指摘して初めて妊娠・出産の自由が外国人に保障されるという論証になるはずである。

→法律家は理屈で説得する職業でもありますが、何の分析も評価もなく、結論だけ断言されても誰も説得されません。法曹となるべき素養を適性試験と入試で確認して入学させておきながら、こんなことも身に付けさせることが出来ていないのであれば、法科大学院の教育能力に疑問符がつけられても文句は言えないでしょう。

☆収容について,人身の自由という実体的権利の問題と,令状等なくして収容されるという手続的権利の問題とがあることについてきちんと整理された答案は僅かであり,人身の自由と手続的権利の問題が混然一体として論じられて整理されていない答案や,淡白な記述にとどまる答案が多く見られた。

→散見されたのではなく、「多く見られた」という指摘から、現在の司法試験受験生の全体としてのレベルダウンが看て取れます(もちろんその中には優秀な方がいることは否定しませんが)。法的な問題を整理して分析することは、法律家の基本と言っても良いと考えますが、分析する前に整理が出来ないのであれば、議論は迷走するしかありません。

☆さしたる検討もなく,「収容=逮捕」として,憲法第33条の例外に当たらないから違憲とする答案も見られた。
→行政手続きと刑事手続きの違いを理解していないのか、時間がなかったのかは分かりませんが、少なくとも私が受験時代に読んだ教科書では、憲法33条は人身の自由及び刑事裁判手続き上の保障と項目分けされており、行政手続きに類推適用されるべきかという論点が記載されていたと思います。

☆問題文では,特労法における収容の要件,手続が詳細に示されているが,これらを十分に検討せず,単に裁判官によるチェックが欠けるから違憲とするだけの答案も目立った。憲法第31条以下の規定の一般的理解が十分でないと考えられた。

→私の記憶では、佐藤幸治の教科書では、行政の実体・手続きの適正性は基本的には13条の問題とし、31条は刑罰との関係におけるものであると明記されていたはずです(但し、20年近く前の教科書ですが)。その上で、厳密には刑罰の性質を有しなくても身体の自由を奪う行政処分に31条を準用する余地を認めていたと思います。あくまでも憲法上の規定としては31条は刑事裁判手続き上の保障という理解でした。行政手続きは、目的も多種多様であり、制限を受ける権利の性質・内容・程度、行政処分で達成しようとする公益の内容・程度など様々な考慮要素があるため、刑事手続きと同列に考えられないはずです。

☆例年指摘しているが,誤字(例えば,妊娠を「妊妊」としたり,「娠娠」としたりするものがあったほか,より懸念されることに,幸福追「及」権,収容を「収用」とするもの,主権を「主観」とするものなど,法概念に関わる誤字もあった。)がかなり認められるほか,乱雑な字で書かれて非常に読みづらい答案が相変わらずあった。

→重要な法概念にかかわる誤字があるということは、その概念の内容についてきちんと勉強できていないという可能性が高いと考えられます。例示された誤字は、司法試験受験生であれば誤解していてはならないものです。法科大学院ではこのようなことをどう考えているのでしょうか。

☆基本的な事項の理解に努めることの重要性を改めて指摘しておきたい。
→要するに基本が出来ていない。これではダメだと採点者は言っています。

(続く)

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