いわゆる谷間世代は、弁護士会費の減額を求めているのか?

 私は反対したにもかかわらず、大阪弁護士会の常議員会では、圧倒的多数の賛成で、いわゆる谷間世代(司法修習中に国からの給費がなされなかった世代)に対して、大阪弁護士会の会費を概ね10年間で84万円分減額する、議案を臨時総会に提出することが可決された。

 そして現在、配布されている大阪弁護士会臨時総会(3月5日13:00~開催)の第11号・12号議案として提出されている。

 私は、かねてから谷間世代が国から修習中の給付を受けられなかったことは国の政策により引き起こされた問題であり、国に対してその救済を求めるのであれば筋が通るが、弁護士会が救済に乗り出すのは筋違いだと主張してきた。

 ところが、執行部は、常議員会で谷間世代が可哀相ではないかという情に訴える内容を交えて説明を行い、常議員の多くは、「確かに可哀相だし会費が余っているのなら良いのではないか」という判断で賛成されたようだ(執行部による会派への根回しがないと仮定した場合の話だが)。

 この度、中部弁護士連合会(以下「中弁連」)の日弁連執行部との意見交換会の議事録を見せて頂き、やはり谷間世代の若手の多くの方は、弁護士会に対して救済として会費減額を求めるような筋違いの主張をしてはいないのだということが確信できた。

 中弁連の議事録の中で、若手カンファレンスに出席しその様子を日弁連執行部に伝えている富山の65期の先生は、このように発言されている。

 「また、返還の減免にかえて弁護士会費の免除という案があるそうですけれども、これにつきましては、(若手カンファレンスでは)独立した弁護士ならともかく、勤務弁護士や組織内弁護士の救済にならず、雇い主を潤すだけだという消極的な意見が大勢を占めました。」

 この若手カンファレンスの報告のように、弁護士会費の減額措置を求めているわけではなく、むしろ弁護士会費を減額しても大した救済にならないし、そのような施策には消極的だ(平たく言えば「反対だ」)と主張する声も、当事者である谷間世代からは、相当強くあるのだ。

 以前のブログにも記載したが、谷間世代からの要望もない、谷間世代の要望の有無について調査もしていない、立法事実も存在しない、統一的連続的な法曹養成の基盤という説明ともそぐわない、谷間世代以外の会員に負担をさせて救済するという不公平を新しく作りだす、何より給費制復活・谷間世代救済を目指して頑張っている委員会・本部の活動に水を差すに違いない、このような救済策を、何故執行部が詭弁や屁理屈までこねて意固地に通そうとするのかと、私は疑問を呈してきた。

 若手カンファレンスの意見を取り入れるなら、上記の反対意見に加えて、「実際に谷間世代の救済にもつながらずボス弁が漁夫の利を得ることになる」、という理由もあげられることにもなろう。

 このように谷間世代の弁護士が、弁護士会費の減額を求めていないのに、敢えて屁理屈をこねてまで、大阪弁護士会執行部がその措置をとろうとするのであれば、考えられる理由は限られてくる。

 一つは、大阪弁護士会執行部が状況の把握もできないお馬鹿さんの集まりだったという可能性、

もう一つは、大阪弁護士会執行部が「自分達が谷間世代の心情を忖度してやったのだから、当事者の意見なんぞ聞かなくとも、会費減額が正しいはずだ」、と極めて独善的な思考をする人達の集まりだったという可能性である。

 しかし、私から見る限り執行部の先生方は、弁護士としては極めて優秀な方々であることは認めざるを得ないし、また優秀な弁護士である以上、訴訟でも証拠に基づかない独善的な主張をされないのと同様、会務においても独善的なお考えはおそらくされないと思われるので、これらの説は採りがたい。

 そうだとすると、結局、谷間世代救済のポーズをとって弁護士会費を減額させることにより、給費制復活・谷間世代救済を目指して頑張っている委員会・本部が行っている国に対する活動に対し、結果的に水を差す(沈静化させる)こと、が隠れた本当の目的なのだということが一番得心がいくように思う。

 少ない司法予算の制約もあってだと思うが、修習生に対する給付金制度導入と引き替えに、日弁連は谷間世代の救済を切り捨てることに合意した。そして、自ら一度は切り捨てに合意した以上、谷間世代の救済を、再度(本気で)国に求めるような「ちゃぶ台返し」は、さすがの日弁連執行部としても、おそらくはできなかったのだろう。

 かといって、日弁連執行部としては、日弁連会員の一万人(20%以上)ほどを占める谷間世代に対して、正直に、「将来の修習生のために、苦渋の選択で君たちの救済を切り捨てました」とも言えなかったのではないか。

 だからこそ、小原会長の常議員会での説明にも「法曹三者の信頼を維持するため」という、一見不可思議な理由が出てきたのだろうと推測する。

 しかし、もしそうだとすれば、給費制復活、谷間世代救済について日弁連は形式的には支援するように見せかけながら、一方で単位会を使ってその実質的な弱体化を積極的に進めることになるのだから、真剣に給費制復活・谷間世代救済に向けて活動されてきた方々に対して、極めて欺瞞的な行為だと言えないだろうか。

 もし日弁連執行部が自らのメンツや、主流派支配の維持にこだわらずに、きちんと事実を説明する勇気があれば、状況は変わったかもしれないと私は思うのである。

 いずれにせよ、私は、谷間世代に対する正当な救済につながるか疑問の多い、筋違いな弁護士会費減額案には反対である。

 なお、先日の常議員会では、日弁連が谷間世代の救済について検討に入ったとの情報も出されていた。

ますます混迷を深めていくように思えてならない。

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