気になる指摘

 平成29年司法試験の採点実感
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00154.html

に、ざっと目を通しているところだが、今年も、かなり気になる指摘があるように思う。

 確か、昨年の採点実感に関する意見(民事系科目第1問)において、次のような指摘があった。

 「法律家になるためには,具体的な事案に対して適用されるべき法規範を見つけ出すことができなければならない。そのためには,多数の者が登場する事例においても2人ずつの関係に分解し,そのそれぞれについて契約関係の有無を調べることが出発点となる。」(平成28年司法試験の採点実感に関する意見【民事系科目第1問】より。)

 上記の指摘は、分かりやすく言うと、「法律家は具体的な問題が生じた場合にどの法律のどの条文(若しくは法規範)を使えば、解決につながる可能性があるのか分かっていなければならない。そのためには多くの人が登場しても2人ずつの関係に分解して、契約関係があるか、なければどのような主張が可能なのか分析しなくてはならない」という指摘である。

 この指摘は、あったり前のことであり、いやしくも法律家になろうとする者が、ある問題を法的に解決しようとする場合に、どの法律のどの条文を見ればいいのか(若しくはどの法規範を使えばいいのか)分からなければ話にならんだろう。

 また、問題解決のためにどの法律を使おうかと考える際に、多数の当事者が入り交じったままの状態では法的関係が錯綜して、どう分析すればいいのか分かりにくい。

 法的関係を解きほぐして単純化して分析するために、2人ずつの関係に分解することは、私達法曹としては常識以前に司法試験受験時代から本能的に身についているやり方である。

 しかし、法科大学院卒業者が多くを占めているはずの、司法試験受験生の多くが法的分析のスタートラインにも立てずにつまづいているので、採点者がわざわざ、あったり前のことをご丁寧に説明してくれているのだ。

 こんな説明を、採点者からされなくてはならないことを、法科大学院の教育者は恥と思わなければならないだろう。法的分析のスタートラインにすら立てない能力しか身に付けさせることができずに卒業させているのだから。

 さらに、今年の、採点実感の民事系科目第1問p6には次のような指摘がなされている。

 「今年度は,具体的な事案に適用されるべき法規範を選択する際に,適切とは言い難い選択をしたために低い評価しか得られなかった答案が目に付いた。」

 要するに、ある問題を法的に解決する場合に、その問題を適切に解決するために適切とは言い難い、いわばトンチンカンな法規範を適用して解決しようとしている受験生が相当数いたということだ。

 一応問題文(民事系第1問・設問1)を見てみたが、多数当事者の登場する場面ではなかったし、問題文が相当丁寧に誘導しているので、解決のために使う法的構成は、おそらくすぐに分かるはずだ。

 また、この程度の問題(民事系第1問・設問1)で、どの法的構成を使えばいいのか分からないとか、使う法的構成を誤るようであれば、はっきり言って実務家としては箸にも棒にもかからないレベルだ。当然法律家としては使いものにならないし、資格を与えてはダメだろう。

 確かに、司法試験は長時間にわたる苛酷な試験ではあり、疲労や緊張から受験生は心神耗弱状態になりかねない。しかし、それを斟酌したとしても、こんな基礎的な法規範の運用もできない受験生を合格させていれば、国民の皆様に被害が及ぶことは必定だ。

 風邪を手術で治そうとしても無理だし、メスと鉗子を間違えるようでは手術にもなるまい。それでも手術で治そうと強行すれば、患者に被害を与えるだけだ。

 おそらく、そのような答案には低い評価しかついてないと思う。しかし、このような答案が目につくレベルの受験母集団から、3~4人に1人の合格者が生まれるのだ。

 司法試験は本当に選別機能を有しているのか、閣議決定等に縛られて、合格させてはならないレベルの受験生を合格させているのではないか等の点について、厳格に精査がなされる必要があると思う。

 受験生の答案の開示(特定が嫌なら、答案の原本ではなくワープロでべた打ちしたものでも良いはずだ)を受けて、検討するべき時期が来ているのではないのだろうか。

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