源氏の勝利至上主義?と弁護士業

 以前にもブログに書いたが(アーカイブス・2009.12.16参照)、私は平家物語の影響からか、源平合戦に関しては平家の方に肩入れする傾向にある。

 特に壇ノ浦合戦における平知盛の「見るべき程のことをば見つ。いまはただ自害せん。」という言葉にしびれていたりもする。

 その傾向は、平家が、源氏と異なり、勝ちさえすればどんな手段を用いても良いという戦をしなかった、ということをTV番組で知って、さらに強まった。 

 当時、戦は自分たちの所属を明示して自分は平家なら平家の赤旗を、源氏なら源氏の白旗を掲げて、正々堂々と戦うのが、伝統でありしきたりだった。しかし、源氏軍は、赤旗を掲げて平家の軍を油断させて近寄り、そこで白旗にすげ替えて、至近距離から一気に押しつぶす作戦をとった。

 源氏のとった手段は、いわば、だまし討ちであった。

 さらに、一ノ谷の合戦では、朝廷の停戦勧告が両軍に出されたため、平家は権威ある朝廷の勧告であり、どの軍もそれに従うのが通例だったことから、源氏も従うはずと、臨戦態勢を解除した。そこへ、停戦勧告を無視した源氏軍が鵯越の逆落としで急襲をかけたのだ。

 源氏のとった手段は、いわば停戦協定違反であった。

 壇ノ浦では、当時戦闘に参加しない船の漕ぎ手は非戦闘員であり、攻撃を加えることは卑劣な手段と考えられていたところ、源氏は平家の船足を止めるため、積極的に漕ぎ手を狙い、平家の船の動きを封じる作戦をとった。

 源氏のとった手段は、いわば許されていなかった非戦闘員に対する無差別攻撃であった。

 確かに、最終的に勝利を収めたのは、源氏だった。

 しかし、勝敗が全てであり、勝ちさえすれば、いかなる卑劣な手段をとっても良い、という源氏の発想は、私にはどうしても違和感が残った。

 たとえ負けたにせよ、人道にもとる作戦をとらなかった平家を私は好きなのだ。

 それはさておき、源平合戦から800年以上経過した現在、経済の面では、規制緩和、自由競争が推し進められ、勝ちさえすれば良いという風潮は、ますます強まっているように感じられる。

 儲けることが至上の命題となり、市場で成功できない(利益を上げられなかった)事業者は、市場から退場せざるを得なくなる。

 その場合、あくまで利益が上げられたかどうか、という結果だけが重視され、利益を上げるに至った経緯は大して顧みられることはない。

 その波は、弁護士の急激な増員とともに、弁護士業界にも及んでいる。

 過払い案件に特化し巨大化した事務所が、ビジネス的には成功者として、もてはやされたりもしていたが、過払い事務所の中には、過払いの見込めない案件や、本来最も救済すべきヤミ金被害者などは、対応が面倒で儲けにならないため、受任を拒否していたところもあったと聞いている。

 確かに、大々的に広告を行って顧客を集め、その中から手間がかからず利益率が高い案件だけを選別して受任し、その他は受任しないというやり方は、ビジネスの視点(儲け至上主義)から見れば正しい。しかし、本当に困った状況に陥っており、弁護士の助力を必要としていたのは受任を断られた、過払いの見込めない債務者や、ヤミ金被害者ではなかったか。

 昨今流行のB型肝炎訴訟・給付金請求も、広告によって顧客を集め、処理が簡単な事案だけを選別して受任する事務所もある。その際に、「事案が複雑であり手間がかかるので、請求は不可能ではないが当事務所では難しい」と正しい説明をすればいいのだが、大々的に「経験豊富な当事務所へ」などと広告している事務所のメンツ維持のためか、請求できるはずの事案でも、「その事案では、請求は無理です」と誤った説明をして帰す事務所もあるそうだ。

 そのような事務所に断られがっかりしながらも、念のため別の事務所に聞いてみたらあっさり受任してもらい、給付金を得られたという話を複数の弁護士から聞いた。もし説明を受けた法律事務所の言葉を信じていたら、本来請求できた人が請求を断念することにもなりかねない。一見、大きな問題がある事務所のようにも思われるが(虚偽を伝えて断るやり方に問題がある点を除けば)、処理が簡単で儲かる事案を選別して受任することは、ビジネスの視点からは正しいことになるのだ。

 法律事務所も弁護士も自由競争しろと、マスコミや規制緩和万歳の学者は無責任に言うが、それは、自由競争の中で他所よりも儲けて生き残れということだ。だとすれば、可能な限り利益率を高める必要があるし、他の事務所が儲けに走っている中で、儲からないが国民の救済になる活動をしていたら、自由競争下では生き残れる確率は低くなるばかりだ。(加えて、弁護士業において自由競争原理が働かないことについては何度もこのブログで述べてきた。)

 もう手遅れかもしれないが、弁護士たちがこぞってビジネス路線に舵を切る可能性を高めることが、本当に国民の皆様にとってプラスになるのか、よくよく考えてみる必要があるように、私は漠然と感じていたりもするのである。

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