日中韓FTAシンポジウムの旅日記~その5

5月20日

 朝食は,X教授に指定されて、七時の予定。遅れてはいけないので、5分前に部屋を出てエレベーターに向かうと、エレベーターホールでたまたまY弁護士と一緒になる。

 1階のホールで少し待っていたが、X教授がやってこない。仕方がないので、先に朝食をとることにする。部屋のキーカードを見せるだけで入れた。昨日もらった資料の中に、食券が入っていたが、それはどうも昼と夜に使うものらしい。

 食事は中華バイキング。コーヒーもお茶もない。粥で水分を取るようにということらしい。昨日逢った偉い方とまたお会いしたので、挨拶を交わす。朝から結構濃い味付けのようで、血圧に影響しないか少し心配。心持ち野菜を多めにとるようにする。

 少しして、Gさんもやってきて、飲み物はないのかなという話になるが、やはり、粥で取るようだ。
 さらに時間がたってX教授登場。食事は7時と決めたのはX教授だが、その時間に、登場しないのが大人物たるゆえんか。

 朝食後に部屋に戻り、服装について考える。今日は発表でもあるから、やはりスーツで行くべきだと思う。しかし暑いのは間違いないので、上着は部屋に置いて、ネクタイだけはしておくことにした。
 これなら、みんながスーツでも、暑いから上着を着ていないだけですよ、という言い訳が可能だし、みんながラフな格好の中で、上着までスーツを着たままで浮いてしまうこともあるまい。
 和解でいうなら折衷案、まあ両面作戦だ。

 待ち合わせの1階ロビーに到着すると、Y弁護士は、上着まで着込んだスーツ姿。「すごいな、暑くない?」と聞くとやはり「少し暑いです。」との返答。そりゃそうだろう。外はかんかん照りだぜ。

 一方、X教授はラフなシャツにノーネクタイ。Gさんもラフなシャツ。シンポジウム会場の6号館まで歩いてみると、かなり暑いので、ラフな格好で来なかったことをかなり後悔する。

 途中、花で飾り付けられたマセラッティと、ドアミラーにリボンを着けたベンツが何台も止まっている。Gさんによると、結婚式なのだそうだ。しかし、自動車の側面には結構泥とかがついていて、綺麗ではない。

 門出にしては、ちょっとなんだな~と思ったが、そんな細かいことに気を使うのは日本人くらいですよ、と米英に留学経験のあるX教授がいう。
 X教授によれば、英国では駐車するときにバンパーをぶつけて隙間を空けて出入りするのが普通なんだとのこと。「『そのためのバンパーでしょ』、とイギリス人は言うんですよ。」と仰る。英国では確かにそうかもしれないが、なかなか日本ではそうは、いかんだろう。

 また5月20日は中国のバレンタインデーのようなものだから結婚式が多いのかもしれない、という説明をGさんから聞く。理由は、5月20日の中国語での発音が、アイラブユーに似ているから、バレンタインデーのようなことになっているのだとか。こんな暑いときにチョコレートをあげても溶けるだけじゃないのだろうか。溶けてベタベタになったら大変だぞ・・・。と数多の離婚事件に携わったS弁護士は、他人事ながら少し心配になる。

 ちなみに、Gさんに聞くと、本命にはチョコレートのプレゼントだが、義理チョコの風習はないそうだ。義理チョコの代わりに脈がない人にはリンゴを渡す風習になっているのだとか。

 やはり今日も暑い。歩いているだけで十分に汗をかく。ハンカチは持っているが、タオルの方が良かった。

 会場である6号館の入り口の外に、兵隊さんのような人が2名立っている。入り口内側にはチャイナドレスの女性が二人立っている。ともに微動だにしない。万が一軍関係の人だと怖いので撮影はしない。Gさんからも、軍関係の撮影はしないように釘を刺されている。良くてカメラ没収、悪ければどこかに連れて行かれるのだそうだ。その「どこか」が分からないだけになお怖い。

 撮影はできなかったが、しばらく見ていると瞬きはしていた。Gさんによると、このホテルは軍部が使うこともあるそうなので、その名残なのだろうかと勝手に考える。

 入ったところには、大きな毛沢東の絵が掲げてある。

 発表者は受付での署名は不要だったので、特にチェックされることもなく会場がある2階にあがる。

 会場は広かった。名札がおいてあり、最前列にS弁護士とY弁護士の名札。他にも着席順は決まっている。X教授とGさんは発表者側の席。いわゆる雛壇の上だ。
 冷房がそこそこ利いている。これならスーツでもなんとか耐えられそうだ。

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(開会式前の会場)

 開会式の時間になって雛壇の上の人たちがやってくると、全員上着まで着用したスーツ姿だった。まあ、国際会議みたいなもんだし、そうだろうなぁ。少しだけネクタイをしてきたことにホッとする。ひな壇でスーツじゃないのは、X教授とGさんだけ。だが、何故かそう強い違和感を感じない。「学会なんだから、勉強が目的でしょ。勉強に適した服装ですが、なにか?」という感じで、逆に、そこはかとなく大物の風格が漂っていたりする。

 しかし、大物ならともかく、一介の弁護士にすぎないS弁護士は別だ。やはりもうすこし貫禄がつかないと、ああはできない。形式的と言われようが、ネクタイ着用はやはり必要だ。

 普段は、お釈迦様の手のひらから脱出できない孫悟空のように、X教授の手のひらの上で踊らされる存在にすぎないS弁護士ではあるが、ここは自分を信じて正解だった。

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(ひな壇の上のエライ人達)

 開会の挨拶だろう。主催者側の中国、日本、韓国の順番になされる。X教授は老子か荘子の言葉を引用して、上手いスピーチをしていた。さすがに場慣れしている。

 正面の壁一面に大きな大会の看板が設置されていて。想像していたよりも相当大きなシンポジウムであることに驚く。しかも配布されたプログラムによると、開会式が行われた会場で発表しなくてはならないことがわかっている。多分一番大きな会場だろう。あ~早く発表が終わってくれんかな。

 とにかく、義務を負ったままだと何も楽しくはない。S弁護士は発表のことばかり考えていた。

(続く)

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