正直言って何をやっているのか分からない「法曹養成制度改革連絡協議会」に対して、経営法友会から企業における法科大学院修了生・社内弁護士の活用状況についての報告が提出されている。
経営法友会が、平成27年に6193社に対してアンケート調査を行い、960社からの回答を得た上で、分析を加えたものらしいが、アンケート結果にはなかなか興味深いものもある。面白いものをいくつかご紹介しようと思う。
1 法科大学院修了生の採用後の処遇
同年代の大卒者と同等 23.0%
同年代の大学院終了者と同等 50.2%
何らかの優遇措置をとる 1.8%
専門職として処遇する 0.5%
その他 3.7%
→つまり、法科大学院を修了しても企業に専門職として扱ってもらえる可能性は、わずか0.5%(200人に1人)である。
アンケート結果から見れば、法科大学院の修了生が他の大学院修了者と同等の処遇(学歴どおりの処遇)をうける可能性は約50%、法科大学院を修了していながら、大卒者と同等の扱い(学歴以下の扱い)を受ける可能性が23%となっている。
法科大学院といえども専門職大学院であるから、修了生には少なくとも大学院終了者程度の扱いがあって当然であると思われるところ、アンケートからは学歴以下の扱いをしている企業が1/4もある。これは、企業側が法科大学院卒業生に対して、学歴相応の価値を見出せていない実態を明らかにしているといってもよいのではないだろうか。
2 社内弁護士の活用
専門的見地からのメモランダムや契約書の作成 44.6%
弁護士資格を持たない法務部員を変わらない 42.1%
社内法務教育の講師 40.8%
コンプライアンス関係の指導・援助 31.8%
社外弁護士からの意見書・鑑定書・アドバイス等
に関するチェック機能 31.8%
→メモや契約書の作成が最も多く、その次に多いのが他の法務部員と変わらないという回答である。もちろん、弁護士としての専門性を生かした使い方をされている企業も多いはずだが、アンケート結果から明らかなように、せっかく社内弁護士を採用しても、メモ・契約書の作成、が最も多い仕事で、その他は他の法務部員と変わらないというのであれば、社内弁護士の意義について、企業はそう高い価値をおいていない可能性があるようにも読める。
3 社内弁護士に対する今後の採用意欲
(社内弁護士が在籍する企業の回答)
是非採用したい 25.8%
できれば採用したい 27.8%
応募があれば検討する 36.1%
採用するつもりはない 3.9%
無回答 6.4%
→上記の回答から、経営法友会は、「約9割の企業が社内弁護士の採用に意欲を見せている。」と結論づけているが、極めて強引に企業の採用意欲を認定したとの感を禁じ得ない(率直にいえば、「データを曲解して嘘の分析結果を報告するな!」というべきか。)。
しかも上記のアンケートは、既に社内弁護士を採用し、現在も在籍させ続けている企業の回答であることに注意すべきである。簡単に例えていえば、トヨタ車に乗ってトヨタディーラーに来た人に、トヨタ車をまた買いますか、と質問しているようなものである。当然、トヨタ車を買いたいという回答が多数を占めて然るべきと思われる質問だが、回答結果はそうではない。
このような企業であっても、社内弁護士を是非採用したいという企業は1/4にすぎないのだ。
現在社内弁護士を在籍させている企業であっても、次の社内弁護士採用に関しては、「応募があれば検討する」、「採用するつもりはない」という回答に見られるように、採用に消極的な企業が40%にも達していることは、極めて示唆に富む回答である。
アンケート結果からは、「企業としては社内弁護士に(日弁連や法科大学院教授が主張するほど強い)魅力を感じてはいない」と結論づけるのが素直な分析というべきではなかろうか。
さらに疑問に思われるのは、社内弁護士に対する今後の採用意欲に関するアンケート結果は掲載されているが、法科大学院修了者に対する企業の今後の採用意欲に関するアンケート結果が掲載されていないことだ。
このレポートの結論は、「企業には法務人材への旺盛なニーズが存在している。」となっている。法科大学院修了者も法務人材であり、法務人材に対する旺盛なニーズがあると結論づけるなら当然、法科大学院修了者に対する企業のニーズも根拠資料としなければならないはずだが、それがなぜか欠落している。
なお、この調査は、設問数81(枝問を含めると約300問)ものアンケート調査であり、しかも社内弁護士・法科大学院修了者の双方について回答を求めたアンケートであると思われるうえ、法科大学院修了生の処遇にも質問していながら、今後の採用意欲についての質問をしていないとは考えにくい。法科大学院修了者に対する企業のニーズに関して、何か不都合なアンケート結果が出たのではないかとの疑念が生じてしまう。
「法曹養成制度改革連絡協議会」の委員の方には、分析に正確性を欠く可能性が高い当該レポートの結論だけを鵜呑みにされるのではなく、正確なデータを求めて頂いて、現実をきっちり把握して頂きたいと切に願うものである。