ゴルフのこと~6

 初めての1人予約で、初心者は初心者用のクラブを使うべきだと、同伴者3人から指摘を受けたS弁護士は、まず、自分の使用クラブの正体を探ってみた。
 最近は便利なもので、インターネットで中古クラブの製造年などが分かるサイトがある。インターネットのサイトによると、S弁護士の使用していた、親父譲りのクラブは1997年製の上級者用アイアン、ドライバーも1998年製であることが判明した。

 なんと、ほぼ20年前に作られたクラブを、しかも上級者用のクラブを使用していたのだ。毎年、更に易しく、更に飛ばせるゴルフクラブが開発され続け、日進月歩の進化を遂げている中で、まさに20世紀の遺物を振り回していたことになる。
 知らぬが仏とは良く言ったもので、まさかずぶの素人が、20年前の上級者用クラブを振り回していたとは、お釈迦様でもご存じあるまい。いくら、弘法筆を選ばずと言ったところで、みんながプリウスに乗っている時代に、弘法様がオート三輪で対抗しようったって所詮無理な話である。しかもS弁護士は弘法様と違ってただの凡人である。
 かすかな記憶をたどってみると、親父殿も、「ものは良いけど、俺には合わん」と言っていたような・・・。我流ではあるがゴルフ歴はそこそこあるはずの親父殿が使えん難しいクラブを、何も知らないヒヨコ状態のS弁護士に与えたって、上手く行くはずないやんか。巷では、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言われているが、結構見ている動物番組では、そんな様子、一度も見たことないぞ。もっと子供は大切に育てられているモンだ。

 調べてみると、初心者用クラブはスイートスポットが広く、事実上、真の会心の当たりが出ることはないが、芯を外して打ってもそこそこ前に飛んでくれることが分かった。一方、上級者用クラブは、スイートスポットは狭いが芯に当たればまさに会心の当たりとなる反面、芯を外せばカスあたりになり大して飛んでくれないらしい。広く浅くの初心者用、狭く深いのが上級者用ってことだ。

 これで、S弁護士にも、自分の打球の飛距離が、どのクラブを使っても変わらなかった謎が解けた。要するに、下手くそなS弁護士は、上級者用クラブの狭いスイートスポットに、ただの一度もボールを当てることができず、これまで数ヶ月の間、延々とカス当たりを繰り返してきたということなのだ。

 おそらく、これまで1000回近くのスイングで一度も会心の当たりが出なかったという恥ずかしい実績はともかく、積年の謎は、じっちゃんの名を懸けるまでもなく、全て解けた。
 しかし、謎は解けても、問題は残る。
 狭いスイートスポットに当てる技術がすぐに身につくはずがないし、1人予約でも誤解を受けるおそれがある。
 初心者用クラブを探さなくてはならない。

 かといって、ゴルフ専門店に出向いてアイアンセットを買うだけの勇気は、S弁護士にはない。

 もちろん仕事では、依頼者のために断固とした態度をとるS弁護士である。しかし、プライベートのS弁護士にとってのゴルフ専門店は、女性の店員さんが、「これが流行ってるんですよ~」とか、「これがお似合いと思いますよ~。わっ、ス・テ・キで~す。」等と、心にもないことを言いながら、おじさんの心をくすぐり倒して、大して必要でもない、様々な道具をあっさり買わせてしまう魔女の巣窟である。

 この魔女ときたら、相当したたかで、「このウエッジのバンスはどれくらいですか?」「このクラブのバランスはD1ですか?」等という、S弁護士も当然分からないマニアック?な質問に対しても、「でもこのクラブ、とっても流行っていて格好いいんです~。」「どのお客さんも、良く飛ぶって仰ってます。」「きっと、お似合いですよ~。」と答えになっていない答えを笑顔で切り返し、ひるまない。

 しかも、間違いなく店側の戦略だろうが、基本的に接客対応の店員さんは若くて可愛らしく、中高年のおじさん達が断りにくい状況が設定されている。

 服を買う際に、散々試着を繰り返し、服をしわくちゃにして生地を確認し、棚の上からも店員さんに服を取り出させて着てみたあげく、「気に入った服じゃないわ」と、ひとこと言って平然と店を後にできる女性の態度を見習いたいが、そこまでの勇気もない。

 仕事ならともかく、かつて、高校生の頃、マクドナルドで、「ご一緒にポテトもいかがですか」と言われ、断るのに苦労した経験をもつS弁護士には鬼門と言っても過言ではない。

 君子危うきに近寄らずは古今の名言。
 ここはじっくり、インターネットで購入だ。

(続く)

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