認定司法書士の裁判外和解に関する代理権の範囲

 最近でこそ減ったものの、一時は地下鉄の吊り広告やスポーツ新聞の広告欄に、借金問題(債務整理)を扱うという、司法書士や弁護士の広告が数多く出されていた。

 もちろん弁護士は、全ての法律問題に関して、全く制限なく、依頼者の方を代理できる。
 一方、研修を受けて認定を受けた認定司法書士は、簡裁民事訴訟手続の代理権を司法書士法で与えられるため、140万円の範囲で依頼者を代理、即ち依頼者の代わりに代理人として行動することが可能である。

 債務整理に関しては、弁護士は全ての案件を扱えるが、認定司法書士には上記の法律の制限があるので、争いがあった。すなわち、借金問題はほぼ定型的な処理が可能な類型であり、仕事としては効率がよいので、簡単に言えば、司法書士側はとしてはできるだけ扱える範囲を大きくしたい考えがあり、弁護士側としては法律の制限を厳格に守れとの考えがあった。

 弁護士側の言い分は、誤解を恐れずに単純化していえば、法律には140万円の範囲と書いてあるのだから、借金として1債権者から請求されている額が140万円を超えている場合、借金総額が140万円を越えている場合は、司法書士には代理権がないというもの。
 認定司法書士側の言い分は、誤解を恐れずに単純化していえば、140万円というのは経済的利益だから、仮に債権者から250万円の請求を受けていても債務整理して借金を120万円に減額できれば、経済的利益は250-120=130万円であり、140万円の範囲内といえるから、代理権はある、というもの。

 今回の最高裁第1小法廷平成28年6月27日判決は、
「債務整理を依頼された認定司法書士は、当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が法3条1項7号に規定する額を超える場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することができないと解するのが相当である。」
 として司法書士側の言い分を退け、
「上告人(認定司法書士)は、本件各債権に係る裁判外の和解について代理することができないにもかかわらず、違法にこれを行って報酬を受領したものであるから、不法行為による損害賠償として上記報酬相当額の支払い義務を負うというべきである」
 と判示した。

 つまり、1件あたりで請求されている債権の価額が140万円を超える借金に関する債務整理は、認定司法書士の代理権がないので、認定司法書士が代理して整理することは違法行為であり、依頼者は債務整理に関して司法書士に支払った報酬を返してもらえるということだ。

 例えば、A・B・C3社から合計300万円の借金をしていた人が認定司法書士に債務整理を依頼した場合、
①A社から100万円、B社から100万円、C社から100万円を借りていたのであれば、各社からの借金は全て140万円以内だから、認定司法書士が債務整理を代理できるので、適法な債務整理となる。この場合は、適法な債務整理がなされているから司法書士報酬を返してもらえない。
②A社から150万円、B社から100万円、C社から50万円借りていたのであれば、B社とC社の債務整理は問題がないが、A社との債務整理は140万円の価額を超えているので認定司法書士に代理権がないため違法な債務整理となり、A社の債務整理に関して認定司法書士に支払った報酬は返してもらえる、ということになる。

 違法な債務整理を行った認定司法書士に対する報酬返還の裁判は、今回の最高裁判決が出てしまったので、一定の証拠さえあれば、ほぼ負けようがない裁判になる可能性が高い。

 認定司法書士への報酬返還を、新たなビジネスチャンス・仕事の掘り起こし、と考えて、大々的に広告をうち、集客を図る法律事務所が出てくる可能性もあるかもしれないね。

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