本当に法科大学院はバラ色か?(5.26ブログの後記)

 H28.5.26のブログに掲載した、回答率を記載していない文科省のアンケートであるが、さる筋から当該アンケートに関する資料(契約書等)を入手したので、その情報から、本当に法科大学院はバラ色なのか、もう一度ざっと検討してみようと思う。

 当該アンケートは、文科省が株式会社ジュリスティックスと契約を締結して実態調査を行わせたものである。
 (株)ジュリスティックスは、「ジュリナビ」という、法科大学院修了生、在学生の就職支援を生業としている会社であり、もともと、法科大学院に好評価の結果が出ないと自らもおまんま食い上げになりかねない、法科大学院の利害関係者であると思われる。(業務計画書には次の通り記載されている。『株式会社ジュリスティックスは、平成19年度「専門職大学院等における高度職業人養成教育推進プログラム」に選定され、文部科学省より助成を受け、明治大学を主幹事校とする13法科大学院により2008年春から運用を開始した、法科大学院修了生と在学生を対象とする就職・キャリアプランニング支援のためのプロジェクト「ジュリナビ」の実務上の運営主体です。』)

 さて、それを措くとして、問題のアンケート対象であるが、調査対象については業務計画書の表1に明記されている。

 法科大学院修了生は概数38,769名、2008年度以降の「ジュリナビ」登録の全国法科大学院修了生は概数16,000名とされているが、重複を許すものとして調査をしている。その結果、合計約54,769名にアンケート調査を行ったと考えるのが自然である。
そして有効回答数が
①修了生の就業先業種では有効回答数 1274(約53,500名は不明)
②修了生の法科大学院教育に対する満足度では有効回答数 1512
                      (約53,250名は不明)
なのだから、回答率は2.32%~2.76%でしかない。また、どうやって有効回答か否かを判断したかも分からない。
 これでは大した分析も出来ないと思うのだが、豈図らんや、(株)ジュリスティックスは、法科大学院高評価の結論を導き出して見せている。

 更にどういう趣旨なのか分からないが、ジュリナビ登録の法科大学院修了生に限って、「メールのコメント反映すること」との付記がある。
 ヒアリング調査分析については、「ジュリナビ登録の修了生ならびにジュリナビ利用で修了生の採用実績のある企業所属の修了生にヒアリングを開始し、より具体的な就業状況、法科大学院で学んだことの中で実際に業務に役立っていること、法科大学院の魅力等について取りまとめる。」と明記されている。法科大学院の問題点について取りまとめる視点は一切ない。
 これって、実態調査というよりも結論先にありきの偏った調査を行うことを前提とした仕様ではないのか。ひかえめに見たとしても、この時点で出来レース感を払拭できない。

 次に、法科大学院修了生に対する法律事務所の満足度調査であるが、どうやら、新60期以降の弁護士が複数名所属する法律事務所を中心に調査を行ったようだ。(株)ジュリスティックスの算出した概数では6500事務所がその対象となっているらしい。そのうち、有効回答数は775である。
 非常に満足が148事務所、満足が279事務所、どちらでもないが259事務所、不満が57事務所、非常に不満が32事務所となっている。約5700の事務所がノーコメントだ。
 採用者の声欄の中規模・一般民事系法律事務所代表弁護士のコメントは、一見法科大学院卒業生に対する高評価とも取れるが、結局は民間企業で経験を積んできた人への評価をしているだけである。結論的に、法科大学院生ならでは、と無理矢理法科大学院と結びつけている感が否めない。

 公的機関や企業の満足度調査については、どれだけの数を調査したのか明確ではないが、
a 新60期以降の弁護士、法曹有資格者、修了生の所属する行政機関・企業約600、
b 上場企業を中心とする大手企業約3150,
c 経営法友会加盟企業・組織内弁護士協会弁護士所属企業約1180、
d ジュリナビ利用で修了生の採用実績のある行政機関・企業等約250
が対象のようである。
合計で約5180。これは重複しない数字だそうだ。

 ちなみに経営法友会は、法科大学院と組んでしょっちゅうセミナーをやっていたりする。かなり法科大学院よりの団体と見受けられる。

 それはさておくとしても、大手企業の3150社を除くと、法科大学院出身者を採用してその者、若しくは新たな法科大学院出身者が所属し続けている企業等がメインの調査対象のようだ。それなら満足度が高くて当然だ。満足したからこそ継続して所属させているのだろうし、再度採用したりもするだろうからだ。しかし、本来なら一度でも採用しているところ全てを調査対象とすべきはずだ。なぜなら、一度法科大学院出身者を採用して失敗し、二度と採用していないところもあるはずだし、そのような企業・公的機関も対象として取り込まないと法科大学院終了者に対する評価について、正確な判断はできないからだ。

 例えていえば、トヨタ車が好きな人を調査するのに、トヨタに車を買いに来る人だけを調査して、「トヨタ車の好感度は90%だ。だから全国民の90%はトヨタ車が好きなのだ。」、と結論づけることはできないだろう。

 さて、そのような偏った対象を調査した結果になるとは思うが、
④修了生に対する公的機関の満足度では有効回答数 32
⑤修了生に対する企業の満足度では有効回答数 110

 総務省によれば市町村の数は平成26年4月で1718、これに都道府県や特別区、中央官庁を加えれば、かなりの数になる。もっとも、その中で法科大学院出身者を採用している公的機関がどれだけあるのか全く分からない。仮に分かったとしても現在採用している公的機関が対象だから、先のトヨタ車の例から分かるように、偏ったデータになることは明白だ。
このデータで、ホントにきちんとした分析が出来るとは思えない。

 企業についてはかなりの低回答率である。上場企業を中心とする大手企業約3150,経営法友会加盟企業・組織内弁護士協会弁護士所属企業約1180、だから、少なくとも4330社はあるはずだ。
 法科大学院寄りと思われる経営法友会加盟企業・組織内弁護士協会弁護士所属企業約1180を調査対象に入れた上で、なお単純回答率2.54%である。
 つまり97%以上の企業は無関心というのが素直な分析になってもおかしくはない。

 なお、業務計画書には、企業等に対して採用実績と今後の採用希望も調査するようになっている。そして、その結果を一番知りたいのが法科大学院であり法科大学院志願者だと思うが、私の見る限り採用実績と今後の採用希望に関するアンケート結果はどこにも記載されていないぞ。
どうして結果が出てないんだろう?
表沙汰にできない調査結果でも出たのではないかと心配になってしまうね。

 法科大学院って、本当にバラ色なんですか?
 それならどうして、志願者が減っているんですか?

 誰か教えて下さい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です