司法試験委員が法科大学院に求めるもの~民事系2・3

今回は、民事系第2問、第3問を取り上げる。

民事系第2問

(引用開始)

3 法科大学院教育に求められるもの
 非公開会社における募集株式発行の手続,新株発行の無効ないし不存在,表見代表取締役,不実の登記,多額の借財,代表権の濫用,株主代表訴訟の対象等についての規律は,会社法の基本的な規律であると考えられるが,これらについての理解に不十分な面が見られる。会社法の基本的な知識の確実な習得とともに,事実を当てはめる力と論理的思考力を養う教育が求められる。

(引用ここまで)

【超訳】~司法試験委員の言いたいことを坂野が推察して意訳した内容。

民事系第2問

3 法科大学院教育はこうやってほしいねん。

 今回の試験で受験生に問うたのは、非公開会社における募集株式発行の手続、新株発行の無効ないし不存在、表見代表取締役、不実の登記、多額の借財、代表権の濫用、株主代表訴訟の対象等の規定やねん。どれもこれも、会社法のほんま基本的な規定やと思うねんけど、その理解が全然たりてへんねん。会社法ゆうたら、日本の経済活動の中心になっとる会社について定めとる、重要な法律やで。法律家になろうっちゅうもんが重要な法律の基本的な規定について理解できてへんかったら、大問題やろ。とにかく、応用や先端分野の話やないで、もっと下のレベルができてへん。

 重要な法律の基礎的な知識が確実やないし、その法律を事実にどう適用するかも分かってへん。しかも自分の主張を論理的に説得的に論じることもまだまだや。

 ようするに、法科大学院では、会社法の基本的な知識を身につけさせることができてへん、知識を事実に当てはめて使う能力も身につけさせることができてへん、論理的に考える能力も身につけさせることができてへん、できてへんとこだらけっちゅうことや。

 ほんま、たのむで。

民事系第3問

(引用開始)

4 法科大学院に求めるもの
 民事訴訟法分野の論文式試験は,民事訴訟法の教科書に記載された学説や判例に関する知識の量を試すような出題は行っていない。むしろ,当該教科書に記載された基本的な事項を正確に押さえ,判例の背景にある基礎的な考え方を理解しておくことが必要である。そして,それらを駆使して,問題において提示された事情等に照らし,論理的に論述する能力を養うための教育を行う必要がある。また,上記3(2)において,設問1に関して,再訴の提起による解決を指摘する答案についてその不合理性を指摘したが,これは,判決(すなわち債務名義)を得ることには,通常,多大な労力を要することを踏まえたものである。法曹養成制度は,文字通り,法曹実務家を養成するための制度であることに照らせば,民事訴訟法分野に係る教育においては,学生に対し,現実の民事訴訟制度を実感させる教育(民事執行制度との連続性を意識させる教育)が期待される。加えて,上記3(3)において,設問2に関して,民法の和解契約が互譲を本質的要素とするものであることから論旨を展開する答案が少なかったことを指摘したが,これとの関係で,各法科大学院には以下のことを希望したい。すなわち,かつて司法試験において民法と民事訴訟法の融合問題が出題されていた頃は,各法科大学院においても,分野横断的な授業科目を設けて熱心に教育に取り組んでいたが,融合問題が廃止されて以降,そうした授業科目を必修から外したり廃止したりする動きがあるようである。もちろん,融合問題の廃止は相応の理由があってのことであり,また,各法科大学院がそれに対応して行動することは理解できるが,そのことが,分野横断的に問題を把握することの重要性に関する法科大学院生の認識を希薄にし,民法は民法,民事訴訟法は民事訴訟法というように,相互の連関を意識することなくばらばらに学習する態度を助長しているとすれば残念なことであり,設問2を採点していてそのような懸念を感じたところである。各法科大学院においては,融合問題の廃止にかかわらず,この点に関する学生の意識を喚起するよう努めていただけると有り難い。

(引用ここまで)

【超訳】

民事系第3問

4 法科大学院に言いたいねん

 誤解してもろたら困るけど、民訴法分野の論文式試験は、「教科書や判例について、君、どんだけ知っとんねん?」っちゅうような知識重視の問題は出しとらへんで。教科書に書かれとる、「基本的な知識を受験生は正しく押さえとるか、ある事件についての判例の判断に、どんな基礎的な考え方が背景にあるのかを受験生は理解しとるか」っちゅうことを、見ようとしとるんや。
 そして、その基本的知識、基本的な考え方を一所懸命に使うて、論理的に破綻せんように、解決せなあかん問題を何とか結論まで持っていく力を身につける必要があるねん。

なにも特別なことやない。法律家なら誰でもやっとることやで。

 設問1に関してふれたけど、現実的やない解決手段を答案に書いても、あんまり評価できへん。司法試験は実務家登用試験やから、法律上あり得ても、現実的やない解決方法を評価するわけにはいかんことくらい、分かるわな。法科大学院は、実務家を養成する制度でもあるねんから、現実の民事訴訟制度を学生に実感させるだけの教育をせなあかん。たとえば、民事執行制度との連続性を意識するような教育や。

 でも答案見たらできてへんで。一体なにを教えとんねん。畳の上で泳ぎの型だけ教えても実際、泳げんやろ。ホンマに泳げる人間育てよう思うたら、泳ぎ方の講義だけやのうて、実際に泳げる方法まで教える必要があるんと違うの?

 さらにいうなら、設問2のとこでも触れたけど、民法定めた規定の本質的議論から出発する答案がほとんどなかったわな。民法は民法、民訴法は民訴法っちゅうように、バラバラで教えとるんと違う?以前、民法と民訴法の融合問題を司法試験で出しとったときは、法科大学院でもそれに応じた教育しとったと聞いたで。せやけど、融合問題が廃止されたあとは、そんな授業を廃止する動きがあるとも聞いとる。そもそも、司法試験に影響されずにじっくり教育するというのが法科大学院の建前やったんと違うの?せやから、原則、法科大学院卒業せな司法試験受けられへんようにして、法科大学院を優遇したんちゃうの?司法試験合格だけを考えて、じっくり教育やめて、合格目標教育になったら、実際のとこ予備校とかわらへんわな。設問2を採点しとったら、そんな懸念感じたわ。

 法科大学院は融合問題の廃止にひよって、予備校みたいな教育にかえるんとちごうて、学生にしっかり分野横断的な視点を持つよう教育してもらわんと困るわな。
 それが法科大学院の使命やろ。

(続く)

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