花岡幸代さん(シンガーソングライター)のこと

20年近く前だと思うが、ふと気になって購入したCDがあった。

花岡幸代さんの「金のりぼん」 である。

 アコースティックな響きを大切にした曲がとても気に入り、これは大当たりだと1人で宝物でも見つけたかのように興奮したことを、いまだに覚えている。貧乏な司法試験受験生だった私には、もう一枚出されていたCDをすぐに買うことができず、食費をけちって、その翌月にもう一枚のCD「さよならの扉」を買い求めたものだった。

 花岡さんは、確かデビュー時にすでに30歳くらいの、かなり遅咲きのシンガーソングライターだったと思う。遅咲きのデビューにはきっとなんらかの理由があり、花岡さんは間違いなく苦労されていて、それでも自分の道をつらぬいて夢をかなえたアーティストなのだと、私は、彼女の曲から何の理由もなく勝手にそう感じていた。
 そして、なかなか司法試験に合格できず先の見えない自分を、花岡さんのような人もいるのだから、と励ましつつ、勉強に疲れた頭に彼女の清潔感あふれる曲と歌声を聞かせてやったものだった。

 その後、私はなんとか司法試験に合格したが、花岡さんは次のアルバムを出さなかった。
 私は、ときおりCDショップに行ったときに、邦楽ハ行のコーナーをチェックするのが癖になってしまったのだが、何度行っても彼女の新しいアルバムは見つからなかった。

 いつしか、私はCDショップのハ行のコーナーをチェックすることもなくなり、次第に、花岡さんはもう消えてしまったのだと考えるようになっていた。私は、引っ越しのどさくさでCD「金のりぼん」をなくしてしまったが、幸い手元に残っていたCD「さよならの扉」は、自動車のミュージックボックスに録音して時折聞いていた。

 先日、「さよならの扉」を聞いていたときに、花岡さんはひょっとして新しいアルバムを出していないのだろうか、と不意に私は思った。

 20年前と違い、今はインターネットという便利な道具がある。

 私は検索をかけてみたのだった。

(続く)

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