裁判官から見た法曹人口の拡大と法曹養成制度改革~その5

(肯定的意見その4)

平成22年で実現を予定されていた合格者3000人が未だ実現されず、逆に、合格者を大幅に減らそうとする動きが主流になりつつある。法曹の活躍場所を拡大する余地はまだ残っているのに、その努力をしないで合格者を減少させることは、夢をもつ若者達を裏切るものだ。

(坂野のコメント)

元裁判官の御意見です。まず、法曹の活躍場所を拡大する余地があるのなら具体的にその分野と採算可能性を明示して頂きたいものです。確かに、採算を度外視するなら、弁護士の需要は間違いなくあります。しかしそれは、ボランティアならともかく、仕事としてみるならば、弁護士の需要ではありません。例えば、一時の規制緩和で法人タクシーが増えすぎてしまい、法人タクシーは減車している状況にありますが、そのような状況下で、次のようなことを言うようなものです。「バス停を見ろ、地下鉄の駅を見ろ、みんな移動したいと思っているじゃないか。だから、タクシーの需要はあるじゃないか、1区間200円の地下鉄料金にすれば、いくらでも需要があるはずだ。」

しかしこの主張が現実離れしていることは明白でしょう。その料金ならタクシーの経営は、決してなり立たないからです。また日弁連や各弁護士会は、業務拡大のために様々な努力をしています。個々人の弁護士だってそうです。HPを作ったり、パンフレットを作ったり、様々な努力をしています。その結果、この現状なのです。抽象的な需要論は聞き飽きました。そんなに需要があると仰るのなら就職出来ていない新人全て雇用してやって下さい。その上で、法曹の活躍場所を開拓して下さればいいのです。採算が取れる、ホントの需要があるのなら出来るはずです。

(肯定的意見その5)

司法試験合格者3000人計画には日弁連が総意として賛成したのであり(H12年11月臨時総会)、見通しを誤って1500人への原因を主張するのは帯刀を取り上げられた武士の反乱に似ている。佐藤先生は「日本に司法が行き渡っていない、まだ増員の必要がある」という立場で一貫している。

(坂野のコメント)

元裁判官の御意見です。ご指摘の日弁連臨時総会では、このまま増えすぎたらどうなるのかという質問に対して、執行部から「企業でも製品が余れば減産する」それと同じように対処できるはずだ、との説明がありました。また、最終的には賛成多数でしたが、議論を強引に途中で打ち切るなど非常に手続的に問題があると思われる臨時総会でした。本当に総意として賛成したのかどうか、執行部の詭弁に惑わされたのではないかについて、是非議事録を読んで頂き、現実を把握して頂きたいと思います。

また、佐藤幸治氏を礼賛していますが、君子は豹変するとは古今の名言。本当に立派な人物は、自分が誤っていると分かれば心を入れ替え、行動の上でも変化することが出来る人であるはずでしょう。過ち(法科大学院制度に関して井上正仁東大教授は、つい「詐欺的」と言ってしまっています。)を歪みと言い換え、あくまで過ちを認めない人物に、立場が一貫していると誉めることの意味が私にはよく分かりません。

(中間的意見その1)

司法改革により多くの分野で素晴らしい成果が上がっていると思うが、弁護士人口の増加が「極端なまでにいびつ」であったので、深刻な状況を引き起こしつつあり、それがせっかくの司法改革の諸成果に悪影響を及ぼしかねない。このような結果を考えずに3000人増員に賛成した責任を感じている。長年20人台の弁護士会に60人を超える弁護士が入会してきたので、ゼロワンが解消され、被疑者国選にも対応できたが、年齢構成が極端にいびつになり、若手のOJT指導が困難になった。都会では最低限の経営基盤さえ見通せず、メンタルを病むなど、廃業する若手弁護士も出てきている。弁護士が増えても弁護士に相応の報酬を支払って依頼する事件は増えていない。遠距離の支部の裁判所には裁判官が常駐せず、その地に開業した弁護士は本庁まで出向いて経済的に割に合わない仕事を余儀なくされている。

(坂野のコメント)

元裁判官の御意見です。法曹人口問題については、中間的というより否定的というべき御意見でしょう。「結果を考えずに安易に3000人に賛成した責任を感じている」と素直に反省されている点は、未だに3000人と約束したのだからそうすべきだと言い張る方よりも好感が持てます。また、若手の現状や、弁護士に相応の報酬を支払って依頼する事件は増えていないという点も的確なご指摘です。弁護士会執行部に鎮座され、何らこれまでの方針を批判的に検討できていないご立派な先生方よりも、よほど現実を見ておられます。惜しむらくは、そういう思いの方が、なかなか積極的に発言して下さらないことです。大阪弁護士会でも会派内でかなり実力をお持ちの方が、もっと発言して下さると変わると思うのですが・・・・・。

(中間的意見その2)

司法試験合格者の質が低下している。OJTが十分出来ていない現状で、能力の不足した弁護士を巷に溢れさせている。法科大学位制度を維持するのであれば、当初の理念に基づく教育をして、司法試験の合格者を増加し、修習期間を少なくとも2年間とした上で、修習期間中に実務能力をつけさせるべきである。厳しい修了試験をして実力を伴うまで終了させるべきではない。

(坂野のコメント)

元裁判官の御意見です。司法試験合格者の(優秀な方の存在は否定しないでしょうから、たぶん全体的な)質の低下、OJT不足による能力不足の弁護士の量産の危険など、かなり怖い現実を的確に表現されています。司法修習期間を2年として十分実務で実力を身に付けさせることも必要でしょう。ただ、以下に司法修習の期間を延ばしても、これ以上合格者を増やして質が維持できるのか、この点に大きな問題を感じます。私が受験していた時代(25000~30000人受験)で、2000番台と言えば私の時代の論文試験総合評価ではC~D評価です。私自身、論文試験でD評価をとったこともありますが、合格してから振り返って考えると、D評価のときは本当に、本当に、何にも分かっていなかったな、と感じます。そのような知識レベルでは、司法修習には到底ついて行けないでしょう。

法科大学院に関して、この方が仰ることは、理想論では理解できます。しかし、他の全ての制度と同じく、優秀な人材を集めないと優れた司法は構築できません。法科大学院制度が足かせとなり、またいびつな弁護士激増が追い打ちとなって、法曹人気が地に落ちた現状では、この方の指摘される手段では、もはや優秀な人材を集める決定打とはなり得ず、残念ながら優れた司法を構築するための有効な処方箋になり得るとは、思えない。

(この項終わり)

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