ロースクール授業参観記~その3

皆さんご存じの通り、法科大学院側は、素晴らしい理念に基づいた素晴らしい教育を行い、厳格な修了認定を行っていると、これまで明言してきた。

S弁護士も大学法学部を卒業した身であり、大学にはそんなこと到底無理だと思っている一方で、(そのほとんどが法科大学院関係者であったり、法科大学院推進派であった方々ではあるが)法科大学院は素晴らしいと仰る弁護士の先生もいらっしゃるので、心の片隅で、自分の考えが誤っていたらどうしようという不安もないではなかった。

だから、今回は、プロセスによる教育の、お手並み拝見だ。

さて、見せてもらおうか、ロースクール理念の神髄とやらを!

威勢の良いかけ声とは裏腹に、S弁護士の座る席の机の上には、はるばる事務所から持参してきた神田秀樹教授の「会社法」(弘文堂)最新版がおいてある。授業の正確性や分かり易さなどを比較しようという目的もあるが、万一、教員から当てられたときに変な答えをしないためというちょっとした自己防御目的もあったのかもしれない。

せっかくもらったパワーポイントのレジュメと、スクリーンに映し出されている映像が一致していることがすこし気になる。レジュメを配布しているのであればわざわざ同じ内容をスクリーンに映す必要ないじゃないか。スクリーンに映すなら、具体的事例とか、設問とかなら、分かるんだがなぁ。

一抹の不安をS弁護士は抱えながらも、とにかく授業は開始された。

ご存じの通り、会社法には様々な制度が規定されており、会社の基本構造を学んだ後は、そのような制度への理解を深めていく必要がある。特に初学者には会社の基本構造は大事なところだ。

教員の説明は、この制度がある、という点に関しては、丁寧な口調だ。
だけど、結構早口だ。
それに、ある制度の説明の具体例を口頭でいうので、分かりにくい。

例えば、会社法349条5項(株式会社の代表取締役の権限に加える制限)について、

「代表取締役の包括的な代表権を制限しても(例えば食品部門にはA代取、薬品部門にはB代取の担当とする等)、善意の第三者には対抗できない。このように不可制限的な権限なんですね。」とレジュメ記載通りで説明が終わってしまう。

果たしてこの説明だけで、法科大学院生は理解できるのか?
多分、学生時代のS弁護士なら無理だ。
具体的に問題となる場面が即座に、頭の中に浮かばないからだ。

『349条4項を見ても分かるとおり、法律上、代表取締役は株式会社の業務に関する一切の裁判上裁判外の行為をする権限を有するとされている。
だから、例えばX社と食品を取引しようとするY社からすれば、X社の代表取締役といえばX社の業務に関する一切の権限を持っていると考えるはずである。その結果、Y社としてはX社代取AをX社の代表として扱って取引すれば安心だ、と考えるのが普通だろう。
ところが、じつはX社の中に内部規定があって、代取AはX社の扱う商品のうち薬品のみの担当であり、食品については代取Bという別の代表取締役の担当とされていて、代取Aには食品を取り扱う権限がないとされていた場合どうだろうか。
Y社とX社代取Aで締結した食品に関する契約はAにその権限がなかったということで無権代表行為や権限濫用などの瑕疵があるものになるとして良いだろうか?法律上、代表取締役には、一切の裁判上裁判外の行為をする権限を与えられているにもかかわらず、X社の都合だけでその権限を制限し、その制限を対外的にも主張できるとして扱って良いだろうかという問題だ。
それでは、あまりにもX社と取引するY社の取引の安全を侵害する。なぜなら、Y社からすればX社内の代表取締役の権限の制限など知りようもないはずなのだ。それなのに、X社から、取引後に「実は、うちの代取Aには食品を扱う権限がなかったので、代取Aの権限濫用行為でした。申し訳ありませんが、その取引はなかったことにして下さい」等といわれても困る。
だから、349条5項は、取引安全の見地から、代表取締役の代表権の制限をしても第三者に対抗できないとして規定しているのだ。
ただし、この規定はあくまで、取引安全のための規定だから、代表取締役の権限濫用行為まで知っていた相手方まで保護する必要はない・・・・・。』

と説明して、最判S38年9月5日の判例(代表取締役の権限濫用行為に民法93条但書を類推適用した判例)へと結びつける。

大体これくらいまで説明してもらわないと、多分、学生時代のS弁護士は理解できなかったと思う。

大学院生の反応も、極めて希薄だ。後ろから見ているせいもあろうが、分かってるんだか分かってないんだか、さっぱり分からない。なんだか必死にノートを取っていたりするけど、ホントに分かってるんだろうか。

S弁護士はだんだん不安になってきた。

(続く)

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