真夏の怪談

ある弁護団会議で、会議終了後の雑談時に恐ろしいお話を聞いた。

大々的に広告をしている某債務整理系法律事務所から過払い金請求を受けた、消費者金融側の代理人に就かれた、X弁護士のお話だ。

弁護士には守秘義務もあるし、詳細にお聞きしたわけではないので、聞き違えた部分があるかもしれないが、某法律事務所は、同じビルに入っている金融機関について法人格が異なっていても全て同一視したうえで、ビル単位で過払い金を計算し、1000万円近くの過払金返還訴訟を提起してきたのだそうだ。
X弁護士が、訴訟の際に法廷でどういう法的根拠で、ビル単位での過払い金請求という主張ができるのだと聞いたところ、相手方弁護士は、法人格否認の法理であると、堂々と主張したのだそうだ。少しでも会社法をかじった方なら、いかにとんでもない主張かは、すぐお分かりだろう。
裁判所もあきれ果てていたそうだ。

これだけでも恐ろしいが、更に恐ろしいのはこれから後の話だ。

X弁護士が代理人に就いた消費者金融は、貸金業法で求められる見なし弁済の要件をきちんと充足していた業者であったため、X弁護士は貸金業法43条の見なし弁済を主張した。見なし弁済が認められれば、過払い金は発生していないことになる。

X弁護士がその主張をしたとたん、某法律事務所の弁護士は、1000万円近くの過払い金請求をしていたにもかかわらず、手のひらを返すように、債務者側が何十万円かを支払う内容で和解に応じたというのだ。1000万円近くを請求していたはずの債務者は、逆に借金を払う内容で和解せざるを得なかったのだ。

某法律事務所のやり方は、もし私が聞いたお話が事実であるならば、弁護過誤に近いものではないかと私は考えるし、決して許されていいやり方だとは思わない。

しかし、某法律事務所のやり方は、違法とまでは言えない可能性がある。
裁判所が某法律事務所の突拍子もない主張を、認める可能性が完全にゼロかといえば、限りなくゼロに近いと思うが、ゼロと断言できない場合も想定しうる。
したがって、某法律事務所が、1000万円取り返せる「可能性がある」と債務者を説得することは、妥当ではないと私は思うが、決して嘘ではないし、某法律事務所が儲けることだけを考えれば、某法律事務所にとっては1000万円の過払い金請求訴訟を債務者に勧めて多額の着手金をせしめることは、自由競争のもとでは、おかしな選択ではない。
そして、X弁護士から見なし弁済の主張を受けた某法律事務所としては、X弁護士の主張に付き合って時間を浪費するくらいなら、さっさと和解してもっと儲かる案件に力を注ごうと考えても、儲けた者勝ちの自由競争下では、決しておかしなこととは言い難いのだ。
依頼者とすれば、1000万円近くのお金が返ってくる可能性があると思って、某法律事務所に着手金を支払って依頼したのに、逆にお金を支払うはめになったのだから、もう踏んだり蹴ったりだ。
しかし、依頼者としては、弁護士の仕事の優劣が分からない。弁護士が儲け主義かどうかも分からない。弁護士が、「相手が思ってもいない証拠を持っていました。このままでは負けますから、和解した方が得です」と説得された場合に、その弁護士が儲けるためにさっさと訴訟を終わらせたいと思っているのか、それとも本当に想定外の証拠が出されてきてこれ以上戦うと却ってキズを深める危険があるのか、依頼者には分からない。その弁護士の言い分を信じるしかないのが実情だろう。

このように、弁護士は、やろうと思えば一般の方を食い物にすることができてしまう恐ろしい職業でもあるのだ。そのような悪徳弁護士は懲戒処分をすればいいと主張する人もいるが、果たして、弁護士が下した、専門的と称する判断に、きちんと異議を唱え、その問題点を見抜くことができる人が、いったいどれだけいるだろうか。懲戒処分によってそのような弁護士を排除することは、理論的には不可能ではないが、実際には相当困難であるといわざるを得ないだろう。

弁護士業務も、自由競争しろとマスコミは騒ぐが、このように、弁護士業界が自由競争至上主義になった場合、そしてその中で弁護士が稼ぐことだけしか考えなくなった場合、多くの一般の国民の方への犠牲が生じかねない。

弁護士をもっと増やそう、弁護士はもっと自由競争すべきである、という人は、そういう危険な社会を、招き寄せている可能性があることを自覚する必要があるのではないだろうか。

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