遺産分割協議の罠~2

 弁護士の方なら誰でも知っていると思うが、責任限度や継続期間の定めのない継続的保証契約において、相続発生後に主債務者が新たに借り入れた債務まで、相続人が承継負担するものではない(根保証の一身専属性)。

 ところが、今回の保証債務は、責任限度も継続期間も決まっていた。裁判例の傾向からすれば、根保証の一身専属性の理論では勝てない。

 遺産分割協議自体が錯誤無効(民法95条)であると主張し、その上で改めて相続放棄の申述をする方法も考えられるが、相続財産として不動産があることは認識した上で、その名義を母親にすることについては錯誤がないので、動機の錯誤で主張するとしても、動機の表示は実際にはされていないから、どこまで錯誤の主張で戦えるのか分からない。微妙だ。

 では、保証債務に基づく支払義務が現実化していない段階で相続したことを理由に、保証債務負担を逃れる主張ができないか。
 この点について、一身専属性が否定される債務の場合は、相続時に求償権として具体的に発生していなくても、相続人は相続後に求償権が具体化したときはその支払の責めを負うのが相当とされ、その趣旨に沿った裁判例がある(東京地判 平成15年12月12日)。

 理由は、相続の効力について定めた民法896条でいうところの「被相続人の財産に属した一切の権利義務」、すなわち、被相続人の財産的地位には、被相続人の連帯保証人たる地位も当然含まれるから、というものである。法理論的には筋が通っていそうだ。

 あれこれ考えたが、死亡した父親の唯一の財産である不動産を、母親名義にしようとしただけなので、他の相続人にとってみれば実質的には相続放棄の趣旨で、遺産分割協議を行ったのだと考えればいいのではないかと思い至った。

 その観点から、判例ソフトで、再検索してみると、2件、使えそうな決定例が見つかった(大阪高決H10.2.9~判タ985-257、東京高決H12.12.7~判タ1096-106)。

 仮に、上記の点をクリアーできても、期間経過の点については、問題は残るが、少なくとも、全く打つ手がないわけではないことは分かった。

 今回の件で、最も責められるべきは、遺産分割協議により負の財産を承継する危険を全く指摘せずに、漫然と、遺産分割の方法を勧めた司法書士だ。

 私としても、十分気をつける必要があると自戒すると同時に、しっかり勉強しておかなければと改めて思った次第である。

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