「おにたのぼうし」 文・あまん きみこ   絵・いわさき ちひろ

「おにた」は、心の優しい鬼でした。

 しかし節分には、多くの家では、鬼を追い払う豆まきが行われます。

 「おにた」のいる家でも、やはり豆まきが始まり、「おにた」は、家を出ていきます。

 寒い節分の夜に、豆まきの音がしない家を探していた「おにた」は、病気のお母さんを看病する貧しい家の少女を見かけます。

 なんとかしてあげたいと思った「おにた」なのですが・・・・・・。

(できれば先に、この絵本をお読み下さることをお勧めします。)

 あとは、この絵本を読んで頂くべきでしょう。

 短いお話なのですが、「あまん きみこ」さんの文章が、子供だけではなく、大人の心にも、ズンと響きます。

 先入観に囚われていた場合、何気ない当たり前の言葉が他人を傷つけることもあります。すがたかたちは「おに」という存在であっても、こころは「おに」ではないこともあるのです。

「おににだっていろいろあるのにな。にんげんもいろいろいるみたいに。」

「おにた」のこのつぶやきを、なんの感情も抱かずに聞き流せる人は、おそらくいないでしょう。

 最後に少女の願いをかなえた「おにた」は、いなくなります。

 最後に残った「くろまめ」をどう考えるかは読み手に任されているように思います。

 「いわさき ちひろ」さんの絵も素晴らしく、「おにた」の気持ちを実に上手く表現しているように思えます。

 子供に、読み聞かせをしてあげながら、涙ぐんでしまったお母さんも多いのではないでしょうか。

 節分では、鬼を追い払う豆まきが付き物ですが、この本を読んだことのある人は、ひょっとして、豆まきをしないかもしれません。

 そういう絵本です。

 ポプラ社 1050円(税込)

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