日弁連の異例な意見交換会~その2

11月1日に行われたこの意見交換会は、日弁連の会議室で行われた。

 部屋の奥に執行部が陣取り、執行部を左側に見ながら法科大学院センターが、執行部を右に見ながら法曹人口政策会議が、それぞれ向かい合って陣を敷き、入り口側に司法修習委員会が法科大学院制度により弁護士となった方々と一緒に座るという配置だった。

 一見して、法科大学院センターと法曹人口政策会議の対決?っぽい座席配置だった。

 開会の挨拶の後、法科大学院センターの委員長から、法科大学院導入の経緯など、もうわかりきっている説明が延々なされ、その後、法科大学院出身者からの発言があり、法曹人口政策会議から問題提起を行い、意見交換という段取りだった。

 法科大学院センターの話は、正直あまり説得的ではなかった。多様な人材を招き入れる理想を散々述べていたが、結局、非法学部出身者の割合は、旧司法試験時代と変わらないデータを否定できなかった。

 また、現在定員削減などで改善中だとのことだったが、幾ら改善したところで法科大学院志願者が圧倒的に減少している現状では、質の維持は現実問題として無理だ。合格者の平均年齢だって、下がっている訳じゃない。社会人に配慮すると言いつつ夜間コースのある法科大学院はわずかだ。各地域に法科大学院を配置するといっても私の郷里のような、ど田舎の法曹過疎地には法科大学院分校すら設置しない。

 その上で、お金も時間もかかる法科大学院を卒業しなけりゃ、原則司法試験を受けさせないとは、悪い言い方をすれば司法試験受験資格を人質に取った法科大学院による搾取ではないか。この疑問に的確に答えられる反論は法科大学院センター側からはなかったように思う。

 ちなみに法科大学院適性試験((独)大学入試センター)の志願者数は、制度が発足した平成15年度は39,350人であったが、減少傾向にあり、22年度は8,650人と78%減少・法科大学院の入学志願者数は、制度が発足した平成16年度は延べ72,800人であったが、減少傾向にあり、22年度は延べ24,014人と67%減少している。志願者が減れば、全体としての法科大学院入学者の質は当然下がる。競争率1.1倍の高校と競争率50倍の高校では、おそらく生徒の質に相当の差が出るだろう。

 言っちゃ悪いが、いわゆる3流高校の生徒が東大の授業を受けてもおそらく理解できないのと同じで、いくら、法科大学院がその教育内容を改善しようとしても、万一仮に法科大学院の教育が良いものだとしても、入学者の質が低ければ、そもそも教育の実はあげられないのだ。

 一方、法科大学院には多額の税金が投入されている。H16年からH22年まで、法科大学院に投入された税金は、毎年71~99億円である。法科大学院対象の日本学生支援機構の奨学金は、上記期間中に68~129億円の予算が組まれているのだ。きちんと法律家を養成する頃ができない法科大学院とそれに嘉陽奨学金のために毎年200億円前後の税金を投入するくらいなら、法科大学院を廃止して、司法試験一本勝負に戻し、合格した人間に給費制を復活させて育てる方がよほど税金の無駄遣いにならないし、日本の将来のためになるだろう。

  大分、話がそれてしまったが、法科大学院センター側は、新制度で合格された超優秀なスーパーエリート弁護士を連れてきて、「法科大学院制度がなければ私は弁護士になっていない」、と語らせ、多様な人材が新制度で弁護士になっていると述べようとしていたが、仮にそのような事実があったとしてもそれは、「新制度導入によって一部の方が弁護士志望の決断ができたことの言い換えにすぎない」ということは、既に私の11月2日のブログに書いたとおりだ。

 また、法科大学院制度を通じて弁護士になった方であっても、法科大学院不要論を述べる方も何人もいた。法科大学院に通える人間は、本当に経済的に恵まれた人間であって、そのことを忘れてはいけない。経済的理由で、優秀でありながら法曹志望をあきらめる多くの人間がいることをに目を向けるべきであるという、渡部弁護士の発言は重かった。

 また、法科大学院センター側から、旧司法試験でも金太郎飴的答案や受験生が同じような間違いをしているとの指摘があり、その弊害を除去を目的とした制度でもあるとの主張もあった。

 しかし、法科大学院での教育を受けた人間が受験した最近の新司法試験の採点実感において、パターン化した答案が目につくとされている点、基本的知識に欠落があり法律試験の答案の体をなしていないとされている点、法的三段論法すらできている答案がわずかである等、法科大学院制度によっても答案のパターン化は改善できず、むしろこんなレベルで実務家にして良いのかというくらい受験生のレベルダウンが甚だしいという事実が指摘されていることに対して、有効な反論はなかったように思う。

 意見交換の中で、感じたのは、日弁連の法科大学院センターは、法科大学院の理想は素晴らしいという点だけにすがって、現実をあまり見ていないのではないか、ということだった。どんなに理想は素晴らしくても現実に失敗となっているのであれば、直ちに改めるのが、正しいのではないか。

 法科大学院を卒業しなくても司法試験の受験資格を与える、予備試験の最終合格者が先日発表されたが、法科大学院を卒業して司法試験を受けるだけの素養があるかを判断するはずの試験でありながら、法科大学院修了者は336人受けて19人しか合格しなかったと聞いている。元来法科大学院は厳格な卒業認定をすると国民に約束しているので、卒業者は当然相当の実力を持っているはずだし、卒業者の実力を法科大学院が保証していることになるはずだ。

 しかし、この予備試験結果からみれば、本来法科大学院を卒業していれば全員合格して当然の試験に5~6%しか合格しないのだから、明らかに、法科大学院を守るために合格者を絞っている制度といわざるをえないだろう。

 こんな不公正なことをやっていて、優秀な人材が法曹界に来るはずがない。

 散漫な記事になってしまったことをお詫びします。

※なお当ブログの記載は、当職の個人的意見であり、当事務所の他のいかなる弁護士にも関係はございません。

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