平成23年度新司法試験合格者発表に思う。

 先日、ある極めて優秀な弁護士の先生と食事をする機会があった。その席で話題になったのは、常識のない新人弁護士が激増しているのではないかという指摘と、今の司法修習生は大丈夫なのか、というものだった。

 司法修習生に関しては、就職が大丈夫かという意味ではない。人としての常識・法律の基礎的知識の点で、本当に実務家にしても大丈夫なのか、ということだ。

 その先生によると、アソシエイト弁護士(イソ弁)を雇用するために、募集をかけたところ、多数の応募があったとのことで、その先生が以前処理された事件を題材に、起案をさせる試験をしたのだそうだ。

 すると、事実を的確に把握して先生の考える正しい法的構成ができた修習生は、わずか2割程度。どう考えても、与えられた事実からは、常識的には不法行為責任で論ずべきところ、無理矢理事実をねじ曲げて債務不履行責任と構成する答案が続出し、「昔の司法試験合格者では絶対にあり得ない。一体、今の合格者はどうなっているんだと心配になった。」とのこと。

 また債務不履行責任として論じて論旨が一貫しているのならともかく、都合の悪いところは不法行為責任を合体させるなど、基本的な民法の理解に、大いに疑問を感じたとのことだった。

 まず第一に法律家は、事実に法律を適用するものであって、自分の知っている法律に事実をねじ曲げて当てはめようとすることは、本末転倒。基本的姿勢が間違っている。第2に、民法の理解が不足しているということは、実務では正直いって何の役にも立たない弁護士ということになりかねない。実に恐ろしいことなのだ。

 今日、新司法試験の合格発表があった。2063名の合格者がでたそうだ。 ここ数年、合格者が2000名程度で推移していることを考えると、どれだけ政策的に合格者を増やそうとしても、さすがに合格者のレベルをこれ以上、下げることは、司法試験の性格からして、まずい状況にあると司法試験委員会が判断したからではないか。

 もちろん、相当上位の合格者の方は優秀であろうことは否定しない。ただし、先ほどの先生のお話からも分かるように、合格された方のうち相当多くの方(8割以上の方)は、司法修習が開始されるまでの間、少なくとも今まで以上に必死に勉強をされる必要があるように思う。合格後には、人の社会的生命を左右する重大な仕事に就く可能性が高いのだから。

 それにしても、ロースクール導入により却って、常識を疑われるような答案が増加するとは、皮肉である。ロースクールは一体何のために導入されたのだろうか。

 閣議決定によると、

①豊かな人間性と感受性

②幅広い教養と専門的な法的知識

③柔軟な思考力

④説得・交渉の能力

⑤社会や人間に対する洞察力

⑥人権感覚

⑦先端的法分野や外国法の知見

⑧国際的視野と語学力

⑨職業倫理

 が、これからの法曹に求められ、そのような法曹を育成するのが法科大学院と位置づけられている。

 さて、①~⑨のどれが実現できているのだ。法曹養成フォーラムに参加されて、法科大学院擁護論を全面展開されている井上委員・鎌田委員に、新司法試験の最低点合格者の答案を見ながら、是非聞いてみたいものだ。

 また、優秀な法曹を養成するロースクールを導入すべきと連呼していた(と私は記憶している)朝日新聞・日経新聞などは、この事態をどう説明してくれるのだろうか。

 この点についても是非聞いてみたい。  

※なお当ブログの記載は、当職の個人的意見であり、当事務所の他のいかなる弁護士にも関係はございません。

お人好しすぎる弁護士会と弁護士

 法テラスから、国選弁護事件に関して、裁判所での審理時間についても、裁判所に報告させることにするという通知があったようだ。つまり、裁判所でどれだけの審理時間がかかったかという弁護士からの報告は、信用ならないので、裁判所に確認するということらしい。

 何度も言うが、国選弁護は、経営者弁護士では絶対にペイしない。

 私選弁護(起訴後)だと、弁護士会相談センター基準では、事案簡明な事件に関する着手金50万円以下、執行猶予判決を得た際の報酬は50万円以下とされている。

 これが国選弁護だといくらになるか。おそらく、事案簡明な事件で起訴後弁護だけだと着手・報酬併せて10万円に届くことは絶対と言って良いほどない。私選弁護の1/5~1/10の報酬しか出ないのだ。

 つまり、国選弁護事件をやろうとする、経営者弁護士は、この低報酬に対し、耐え難きを耐え、忍びがたきを忍びつつも、司法修習の給費制という税金で育ててもらったという意識や、使命感で、可能な限り良い弁護をしようとしてきた。弁護士会も、私選と国選で区別なくきちんと弁護するよう指導しているし、少なくとも私のまわりの弁護士はそうだ。

 弁護士も、規制緩和だ、自由競争だ、というのなら、頂ける費用に見合った弁護しかしなくても、文句を言われる筋合いはないだろう。

 タイムチャージが3万円の弁護士なら、6万円の報酬しか出ない国選弁護事件においては、2時間働けば、それで終わり。弁論要旨を作成して、公判に一度出席すれば、2時間なんてあっさりオーバーする。それ以上働かなくても、文句を言われる筋合いはないだろう。

 だって、それだけの価値のある専門家を利用したのだから。それ以上専門家を利用したいのなら、その専門家を利用するに価値に見合った費用を払うのが、自由主義経済では当たり前のことなのだ。  

 どこの世界に、ワンメーター2㎞、650円の料金しか払わずに、20㎞先までタクシーに乗れて当然というばかげた国があるというのだ。そんな国でタクシーがやっていけるわけがないではないか。しかも今回の法テラスの通知は、20㎞走らせた確認に留まらず、その運転の仕方にまでチェックを入れるということだ。

 ワンメーター2㎞の料金で、タクシーを20㎞走らせて、なおかつその走り方までチェックしないとお金を払わないという客が、いても良いのか。そこまで馬鹿にされてまだ、弁護士は国選弁護というタクシーを運転し続けなければならないのか。 

 確かに、某県での弁護士の国選弁護費用不正請求事件があったことは事実だ。

 しかし、その前に、国選弁護に関して、国民の皆様は正当な料金を弁護士に対して支払ってこなかったということを、忘れてはならないように思う。つまり先の例で言うと、今まで国民の皆様は、何十年にもわたって、2㎞ワンメーター料金で、その5~10倍の10~20㎞のドライブを弁護士にさせていた、弁護士はお人好しにも、若干の文句をいうだけで、そのひどい所業にずっと耐えて働いてきたという事実に着目すべきなのだ。

 正当な料金を支払ってもらっていればいざ知らず、何十年もの間、2㎞の料金で、20㎞走らされていた赤字のドライバーが、釣り銭を少し誤魔化した場合、そんなにひどく非難されなければならないのか。

もう、弁護士会としても、お人好しをそろそろやめて、きちんと対応すべきではないか。規制緩和、自由競争を弁護士に導入するなら、当然活動に見合った費用を請求できて当然だ。

 その費用が国から出ないのなら、逆に国選事件の活動を制限するのが筋となるだろう。例えば、国選事件では、接見は1回に限定。弁論要旨も3ページ以内。証人尋問や、被告人質問は時間がかかるので省略。 しかし、こんな国選弁護で、人権が守れるわけがなかろう。

 国民の健康を守るために医療費がかかるように、国民の人権を守るにも費用が当然かかる。

 最大の問題は、国選弁護制度を作っておきながら、その制度運用に見合った費用を国が出さないことであり、お人好しにもワンメーター料金で、その5~10倍もの距離を走り続けてきた弁護士と弁護士会にあるように思う。

 ここまで、馬鹿にされるなら、そろそろ、ストライキを含めて、お人好しを止めることを考えても良いのではないだろうか。

近畿予備校のこと~その3

(続き)

 食堂がなかったので、お昼は同志社大学の学食を使わせてもらうことが多かった。私はミンチカツの定食と生協コーヒー牛乳が定番で、そうでないときはカレーを食べた。少し余裕があるときはマクドナルドを食べることもあったが、基本的には高くてあまり食べられなかった。なか卯の牛丼も食べたが、お金がないときは当時同志社大学周辺に数多くあったゲームセンターでタイムサービスでもらえた無料ポップコーンを食べて、炭酸飲料を飲むという荒技も使った。

 意外に腹持ちが良いとラジオ番組で誰かが言っていたので実践したわけだが、実際に腹持ちは悪くなかった。しかし、体調は悪くなったように思った。

 夕食は、学生食堂「なかじま」まで自転車で出かけることが多かった。焼き肉定食のBかC(肉の種類が違う)が多かったが、時折クジラカツなど、嬉しいメニュウも登場した。

 大学合格後だったか近畿予備校在学中かはっきりと覚えていないが、数学の広中平祐先生が近畿予備校で講演されたのを聞いた記憶がある。確か、近畿予備校で講師をされていたことがあったのだそうだ。

 大学生活に馴染むにつれ、近畿予備校から次第にに遠ざかった私だが、意外なところで近畿予備校と再会する。司法試験の短答式模試や、論文直前答練で、某司法試験予備校が近畿予備校を会場としたのだった。

 懐かしい思いで、近畿予備校に向かったが、やはり設備は当時のままだった。ただ、私が予備校生だったときに司法試験予備校に教室を貸すことをやっていた記憶がなかったので、色々大変になってきているのかなと少し心配になった。

 インターネットで見てみると、近畿予備校は、今でも大学受験予備校として健在のようである。ただ、私が在籍したときのような「伝説の予備校」的な合格率をたたき出すことはできていないようだ。

 かつての近畿予備校を知る身としては、近畿予備校が残っていることに安心する反面、あの異様な熱気に満ちた近畿予備校の姿はもう見られないのかと少し残念に思うのだ。

近畿予備校のこと~その2

 (続き)

 近畿予備校の設備自体は、はっきり言って、結構ぼろかったように思う。

 机自体も前後の幅が短く、大きめのノートがはみ出しかねない大きさ。照明もそう明るいものではなかった。エレベーターもなかったように思うし、出欠は、事前配布の出席票を切り抜いて箱に入れる方式(本当に出欠を取っていたかすら、疑わしかった)。成績優秀者の張り出しは手書き(優秀者・優良者など、優秀な成績を修めた者ほど名前が大きかった)。食堂もなく、ハンバーガーの自動販売機が中庭あたりにあったような記憶がある。

 しかし、合格実績はすさまじかったし、京大医学部を目指しての多浪生(人間離れした成績をたたき出す超人的な人もいた)も多かった。パンフレット上では、数学の永井先生、英語の橋本先生が確か2枚看板だった。

 とはいえ、永井先生の数学の授業は、正直言って難しすぎて理解できなかった。永井先生はすらすらと解いて見せて、口癖は「簡単明瞭」だったが、どうして簡単明瞭なのか自体が理解できなかった。同じ下宿の理系の友人に聞いてみても、分からないときがあるとのことだった。しかし、医学系の生徒には絶大な人気があったので、本当はすごい先生だったのだろう。

 永井先生のもう一つの口癖が「某ラージS予備校」。近畿予備校が身分証明を発行した本科生(つまり本当に近畿予備校で浪人した者)だけを予備校実績としての合格者として律儀に発表しているにもかかわらず、S台予備校が、合格者実績に講習だけの参加者や模擬試験だけの参加者を加えて予備校の実績として大々的に公表していることがお気に召さなかったのだろう。

 橋本先生は、だみ声で「猛勉したまえよ。猛勉!」が口癖。解釈論などそっちのけで、とてもそんな名訳できない、と受験生があきらめかねない訳を披露し、熱く語る先生だった。悪く言えば、どうしてそんな訳になるのか分からないまま、模範の訳だけおっしゃるイメージがあったが、受験生に活を入れるだけのパワーは十分にあった。

 橋本先生のもう一つの口癖は「京都はあかんね」といって、新幹線で東京に着いたときは東京~東京~と語尾が上がるのに、京都だと京都、京都、と語尾が下がり力が抜けるなどとおっしゃっていた。プロレス好きで、時折プロレスの話もされていた。

 小さいながら、意気軒昂、俺たちはどこの予備校にも負けない。という気概がみなぎっていたように思う。

 そのほかの先生では、澤井先生(英文解釈)、古川先生(英作文)が印象に残っている。

 澤井先生は、イタリア語にも堪能だとのことだったが、毎回白衣で登場し、切れのある解釈論を展開された。何度も目から鱗が落ちる思いをした記憶がある。後に作家澤井繁男として、賞も取られたはずだ。

 古川先生は、豊富な実務経験をお持ちのようで、毎授業前に、添削希望者が英作文を黒板に書き、それをどうしてこの表現ではおかしいのか、この場合はどういう表現を用いるのが適しているのか、を解説された。私は毎回古川先生にズタボロに添削されることを承知で、何度も添削して頂いた。

(続く)

近畿予備校のこと~その1

 私は、大学受験に失敗した後、京都市烏丸今出川下ルにあった、近畿予備校という予備校に1年間通った。

 はっきりとは覚えていないが、私が在籍した年は、文化系200名弱、理科系1100人強くらい、そのうち、医学系が1クラスだったように思う。

 近畿予備校の入学案内パンフレットには、世紀の奇跡!とか、栄光の金字塔!などの言葉が踊っていたが、決して誇大広告というわけではなく、とにかく京大に関しては、べらぼうな高合格率を誇っていた。

 校内模試全校順位で1300人中500番くらいなら京大合格の可能性は相当あると言われていた。校内模試も、言ってみれば京大模試みたいなもので、少なくとも私が受けていた文系の校内模試の出題形式は、京大入試にそっくりだった。

 しかも近畿予備校は京大医学部にはめっぽう強かった。私の在籍した年でも比較的少ない年だったと言われたとはいえ、30名以上が合格した。

 つまり私のおぼろげな記憶だと、当時の京大医学部の定員は確か120名だったので、合格者の半分が浪人だとすると、京大医学部に浪人して合格する学生の半分以上は近畿予備校出身だったということになる。

 そこらの私大に合格するより、近畿予備校の入試に合格する方が難しいとの噂もあったとのことで、かつて伝説の予備校が京都にあったと、後に言われたそうである。

  私は、京都駿台の東大コースにも受かっていたが、何故か近畿予備校を選んだ。

  しかし、通ってみると実は、近畿予備校はボロかった。

(続く)