諏訪敦絵画作品展~「どうせなにもみえない」 その1

諏訪敦絵画作品展「どうせなにもみえない」

NHKの「日曜美術館」で放映された番組で、諏訪敦という画家を知った。

番組HPによる紹介は以下のとおり。

記憶に辿りつく絵画~亡き人を描く画家~

「亡くなった娘を絵画で蘇らせて欲しい」。1人の画家に来た依頼だ。
画家は独自の写実表現で注目される諏訪敦。
 諏訪は以前、舞踏家の大野一雄を1年にわたり取材し、連作を描いた。そして7年後に100歳を迎えた大野を再び取材し描いている。諏訪は写実的に描くだけでなく、徹底した取材を重ねて対象となる人物と向き合い、人間の内面に迫ろうとする気鋭の画家だ。
 依頼したのは、2008年の5月、南米ボリビア・ウユニ塩湖で交通事故に遭(あ)い炎上死した、鹿嶋恵里子さん(当時30)の両親である。鹿嶋恵里子さんは結婚も決まり、結納式から10日後の突然の悲劇だった。
 依頼した内容は、諏訪の絵によって快活な娘を蘇(よみがえ)らせて欲しい、というものだ。
 亡き人を描くために彼はわずかな手掛かりを求め、さまざまな取材・手法から彼女の特徴を探っていく。 自分の表現としての作品性と、依頼した両親の娘に対する思いをどのように1枚の絵画に描いていくのか。諏訪が悩み、葛藤していく様を撮影した。

 番組では6か月にわたり諏訪と依頼した鹿嶋さん家族を取材。親の思い・亡き人と向き合った彼の苦悩と完成までの軌跡を追った。

http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2011/0626/index.html

(以上、NHKのHPより引用)

 この番組で、私は、凄まじいまでの取材(苦闘?)を重ねる諏訪敦という画家に強烈な印象を受けた。

 その諏訪敦の絵画作品展がこの夏、長野県諏訪市美術館で開催されると聞いたので、どうにも見逃せなくなって、先日見に行ってきてしまった。

(続く)

絵画展ポスターのpdfファイルをダウンロード

法曹養成フォーラム第3回議事録から~その2

(前回の続きです)

 今回は、ロースクール擁護派の伊藤委員(山梨学院大学法科大学院客員教授)の発言を見てみます。

「(自分は検事を辞め、弁護士登録し、法科大学院客員教授になっていることを述べたあと)私はずっと前からこの問題を考えるときに,所詮この給費制・貸与制というのは司法試験に合格した人の話ではないかと。だから,余り感動を覚えないんです。特に地方の法科大学院などへ行っていますと,受かるか受からないか分からない。当初の合格者の数も当てにならない。しかも合格率も予想していた数字とは全然違うということで,とにかく受かりたいから来たと。だから,受かった先にお金をもらえるか,もらえないかということについては,学生はほとんど関心がない。それよりは,とにかく約束どおり数字をきちんと保障してくれて受かるような体制をつくってくれというのが彼らの一番の声ではないかと私の周りの人たちは言っております。つまり,受かって給費してもらえるか貸与してもらえるかという人よりはるかに多くの人たちが法科大学院に入りながら,恐らく三振でアウトになって外れていってしまう。その人たちのかかったものをどうやって補償してやるのかということのほうが私にとっては心配だなと。ですから,言いかえれば,言葉は悪いですが,もしそういう受かった人にくれてやるようなお金があるのなら,法科大学院で勉強し,司法試験に合格し,かつ就職する,そういう法曹養成教育全体に対して何らかの支援を考えるべきではないかと考えます。」(下線は坂野が注記)

 あ~あ、またもや、法科大学院にとりすがった方の、利権擁護発言としか思えないなあ。

 どうして合格率が当初の目標まで届かないかというと、あっちこっちの大学がバスに乗り遅れるなとばかりに教育体制も整っていない状況であっても法科大学院を乱立させ、それを維持しようと意地を張っていることと、厳格な卒業認定が出来ていないからです。

 バカみたいに法科大学院の乱立を認可した文科省などは、確か、競争させて法科大学院を淘汰すればいいと言っていたように記憶していますが(法科大学院協会だったかな)、私の記憶が確かだとして、どれだけ淘汰されてますかね。募集停止はまだまだ、姫路獨協くらいじゃないですか。

 乱立させておきながら、約束した淘汰をしないから、ロースクール生が溢れ、合格率が下がるんです。小学生でも分かる理屈でしょ。

 そればかりではありませんよ。先日、大阪弁護士会法曹人口・養成検討部会では、山梨学院大学より遥かに偏差値の高い関西有力大学ロースクール2校の実務家講師においで頂いて、 実情をお聞きしました。その先生方に、本音のところ、卒業させて実務家にしても良いとお考えのロースクール生はどれくらいいるのかお聞きしました。

 詳しくは言えませんが、お二人平均で、上位4分の1くらいなら、とのお話でした。

 ただし、お金を頂いて教育しているのだから諸般の事情から、厳格に卒業認定してダメな人を落とすことは出来ないのが現状だとのことです。実務家教員は学者教員と違って、実際に司法試験に合格して合格者のレベルを知っているから分かるんです。司法試験に合格していない学者教員は合格レベルなんてさっぱり分かっていないはずですよ。

 仮にお二人の平均をとっても、上位4分の1ですから、少なくとも関西有力法科大学院と同じレベルのロースクールは、厳格な卒業認定をするなら、本来成績上位4分の1以下の方を卒業させてはならんというのがスジです。

 おそらく伊藤委員の法科大学院なら、卒業認定できるのは、それ以下の数になるはずです。

 これが国民に約束したロースクールの厳格な卒業認定ではないのでしょうか。そしてこの厳格な卒業認定をやれば、合格率は相当上がりますよ。だって受験者が4分の1になるんだから。

 ロースクールの淘汰や、厳格な卒業認定という国民への約束も守らずに、ロースクール卒業生の当初予測された合格率だけ守ってくれって、なにわがまま言ってるんですか。子供じゃないでしょ。有識者でしょ。

 さらに言えば、ロースクール乱立状態になった時点で、当初の予測された合格率が実現不可能であることくらい、高校生でも分かります。自分の一生をかけた法科大学院進学時に、それが分からなかったと仰るのであれば、法曹になる以前に、状況把握する一般的な能力が欠けてしまっているといわれてもしょうがありません。

 三振アウトの人が多く生じてその方々を救済する必要があるというのであれば、法科大学院が責任を持って売り込めばいいじゃないですか。法科大学院関係者や法的ニーズを研究する社会学者の中には、まだまだ法的ニーズはあると仰ってる方がたくさんいらっしゃいますよ。少なくとも厳格な卒業認定(すなわち学生の品質保証)をして、卒業させているのだろうし、法科大学院の目標でもある幅広い教養や豊かな人間性も身についているのだろうから、本来社会では、ニーズもあって品質保証された人材がいれば、当然引っ張りだこの状況にあるはずではありませんか。もし売り込めないなら、ニーズがあるという主張が嘘であるか、法科大学院の厳格な卒業認定が嘘であるか、いずれかでしょう。

 どうしても、就職できないなら、ご自分の大学でお雇いになったらいかがですか。法的素養も自分の大学が保証しているわけだし、まさか厳格な卒業認定していながら能力不足とは言わんでしょう。

 残念ながら、伊藤委員のこの発言部分は、私には、法曹養成がどうなろうと構わんので、ロースクールの尻ぬぐいを税金でして下さいというお願いにしか読めません。

疲れてきましたが、もう少し続けます。

「それからもう一つは,先ほどの井上先生のお話にもありましたけれども,この問題は結局同じことを議論しているのです,昔の話と。ですから,国が一回決めたことはきちんとやってみるということが必要だと思うのです。法曹に対する信頼あるいはいろいろなものに対する信頼というのは,約束したことをきちんと守るというところに一番あるのではないかと思うわけです。若い優秀な人たちが法律家の世界へ来なくなっているという話が前回も出ていましたけれども,その大きな理由は,我々があるいは国が約束したことを守っていないからではないか,そういうところに問題があるのではないかと。」

 あのね、一度決めても間違っているならやらない方がマシなんです。過ちを改むるに憚ることなかれ。過ちを改めざるこれを過ちという。は古今の名言。まさか知らないとは言わせませんよ。給費制を貸与制に変更するにしても、法科大学院制度を含む法曹養成制度が上手くいっていることが前提だったのではないですか?

 それに優秀な人材を集めるためには、約束を守ることではなくって、お金をかけるか、権力を与えるか、名誉を与えるか、くらいしかないと思いますよ。それ以外にあるなら是非教えて下さいな。約束を守るだけでヘッドハンティングが出来ますか?もちろん法務博士なんて名誉でもなんでもない。どの弁護士も肩書きに入れていないと思いますよ。誰も格好悪くて使えない博士号でしょ。

 都合の悪いところを無視して、自分の主張だけ言いつのるのなら、中学生だって出来る。伊藤委員にも、もっと大人の議論を期待したい。

「それから三つ目は,弁護士会はいろいろおっしゃいまして,その弁護士会の皆さんのお気持ちも分からないわけではないのですけれども,私が感じたのは,今回の調査でも回答率が13.4%と言っていますね。つまり,自分たちは余り関心がないのではないか。とにかく,弁護士会全体の問題として,弁護士全体の問題として,そんなことはあまり考えていないのではないかと感じざるを得ないなと。」

 この点に関しては、正しい指摘かもしれません。これは、おそらく、弁護士会がこれまで一般会員の意見を無視して派閥の力学で、これまでの日弁連の意向を決定してきた経緯が大きく影響しているようにも思えます。

 しかし、よくよく考えてみて欲しいのです。

 今、弁護士として活動している人間にとっては、極論すれば給費制は自分の問題とは全く関係ないのです。あくまでこれから法曹を目指そうとする方について、給費制を論じているのですから。

 伊藤委員に即していえば、伊藤委員が法科大学院を退官されたあと、その法科大学院教員の待遇がどうなろうと伊藤委員は普通関知しないでしょう。

 そこを敢えて、弁護士が忙しい中、13.4%も回答を寄せたということは、どのような意味があるのか、今一度考えてみて欲しいのです。

 まさかその意味も分からずに、伊藤委員が有識者を名乗ることはされないだろうと思うから。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

法曹養成フォーラム第3回議事録から

 法曹養成フォーラムの第3回議事録が先週末に公開された。

 http://www.moj.go.jp/housei/shihouhousei/housei01_00056.html

 私は例によって、法科大学院維持派の委員に注目しているが、今回も井上委員と伊藤委員、鎌田委員が吠えている。

井上委員

「(貸与制は自分も関与し一生懸命考えた良い制度だと自画自賛し、給費制維持の主張は不可解と論じた上で)

 もう一つ,志願者減の話を川上オブザーバーはされたのですが,御発言の中でいみじくも言っておられたように,志願者が減っている最大の原因は,司法試験合格者の数が低迷というか伸び悩んでおり,合格率が下がっているということにある。社会人については特にリスクが高いわけで,そこに主因があるのに,日弁連では,他方で,合格者数を更に削減すべきだということをおっしゃっており,言っておられることが矛盾しているとしか思えません。また,法科大学院から司法試験,司法修習を経て法曹資格を得るまでに全体として5年間という長期間を要するという御指摘も,それはそのとおりなのですけれども,制度改革以前の状況を考えてみますと,大学在学中から司法試験に挑戦して受かるとしても,30歳前後になってようやく受かる。しかも,合格率は3%くらいでしかありませんでしたので,多くの人はそれでも受からなかった。その何年もの間どうやって受験勉強をしていたのかというと,多くの人は予備校に行っており,その費用だけでも当時の額で数十万円から100万円を超えるという状態で,これ以外に生活費等が当然かかっていた。例外的な人はいましたけれど,多くの人はそれくらいの状況におかれていたのです。それに比べて今の制度の方が,もちろん万全とは言えないですけれども,相当に整備され改善されていると私などは思っています。実際に学生たちと話して,なぜ法科大学院を選ぶ人が減ってきているのかと聞くと,司法試験に受かった後の給費制・貸与制の問題ではなく,それより前のほうのハイコスト・ハイリスクにあるという答えが返ってきます。ロースクールにお金が掛かるのに,司法試験に受かるかどうか分からない。こういった状況がコストに比べて非常にハイリスクだということなのです。ですから,そこのところをどうやって手当てしていくかということが,むしろ肝要なのではないかと私は考えます。」(下線は坂野が追加)

 あ~あ。どうしてこう学者の先生って、ご自身の見込み違いを認めることが出来ないんでしょうか。エライ先生ほどそうなのかなぁ。

 未だに、井上委員は、法科大学院志願者減少の原因を、新司法試験合格率の低迷に求めている。

 まず、司法試験は、法律で、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする。」(司法試験法1条1項)と決まっている。つまり、どんなに法科大学院がいい教育を仮にしていたとしても上記の学識と応用能力がなければ、どれだけ井上委員が法科大学院擁護を述べても合格させることは出来ないのだ。

 当たり前だ。法曹になるために必要な学識と応用能力が認められないんだから。

 そればかりか、実際の採点委員の意見によると、こんなレベルで実務家登用試験に合格させて良いのか不安に思う。という趣旨の意見もあるくらいだ。

 法的三段論法すら出来ていない答案が多いとは、法科大学院教育の崩壊を示す指摘でもある(平成21年度新司法試験採点雑感に関する意見参照)。フォーラムの有識者委員には、せっかくその資料をお送りしたのに、無視されたのかなぁ。それともエライ先生には、新司法試験考査委員の意見など、捨て置けという、おつもりなんだろうか。

 現実を見ない点では、もっと問題があるように思うんだけれど。

 何度も指摘しているが、井上委員が指摘している旧司法試験は、合格率が2~3%だったが、志願者は年々増加していた。合格率が志願者の数を決めるのであれば、当然旧司法試験の志願者は減少していなければならないんじゃないのだろうか。こんなかんたんな質問に、エライ学者さんは答えてくれない。奥島氏もそうだった。

 旧司法試験についても、合格者の平均年齢は30歳にはなっていなかったはずだ。

 平成元年からの司法試験合格者平均年齢は、私の資料によると以下のとおり。

 平成元年  28.91歳

 平成2年   28.65歳

 平成3年  28.63歳

 平成4年  28.22歳

 平成5年  28.29歳

 平成6年  27.95歳

 平成7年  27.74歳

 平成8年  26.35歳(但し、この年以降若手優遇枠~いわゆる丙案~あり)

 平成9年  26.26歳

 平成10年 26.96歳

 平成11年 26.82歳

 平成12年 26.55歳

 平成13年 27.42歳

 平成14年 27.52歳

 平成15年 28.15歳

 平成16年 28.95歳

 平成17年 29.03歳

 平成18年 29.33歳(旧試験)    28.87歳(新試験)

 平成19年 29.9歳(旧試験)     29.20歳(新試験)

 平成20年 29.8歳(旧試験)     28.98歳(新試験)

 平成21年 29.5歳(旧試験)     28.84歳(新試験)

 平成22年 28.8歳(旧試験)     29.07歳(新試験)

 なんのことはない。新制度になっても、30歳前後になってようやく合格することには変わりがないのだ。

 しかも新制度だと、法科大学院を卒業しなければ受験すら出来ない制度であるため、法科大学院通学~卒業のための費用がどっかとのしかかる。仕事も辞めなければ法科大学院にはまず通えない。5年間で三回失敗すれば受験資格さえ失われ、かけてきた費用は丸損だ。

 旧制度だと、仕事をしながら何度でも受験できた。つまり職業を持っている人は仕事を辞めて法科大学院に通う必要がないので、受験しやすかった。優秀な人間は長時間の回り道(法科大学院)を通らずに済んだ。当然法科大学院に支払う高額な費用も不要だった。自分の仕事と収入の範囲内で、司法試験に時間と費用をかけて実力を身につけチャレンジすることが出来たのだ。

 さて、どちらがより公平で、開かれた制度であり、どちらがよりリスクの大きい制度であり、どちらがより多くの多様な人材が法曹界を目指すことが出来たのかは、おつむの偏ったエライ先生方以外は、もうお分かりのはずだ。

 いみじくも井上委員本人が、言っているではないか。

「実際に学生たちと話して,なぜ法科大学院を選ぶ人が減ってきているのかと聞くと,司法試験に受かった後の給費制・貸与制の問題ではなく,それより前のほうのハイコスト・ハイリスクにあるという答えが返ってきます。ロースクールにお金が掛かるのに,司法試験に受かるかどうか分からない。こういった状況がコストに比べて非常にハイリスクだということなのです。」

坂野注(井上委員は無視していますが、坂野としては、新人弁護士の就職難・低収入化など、リスクとコストに見合ったリターンが見込めなくなってきた面も相当強いとは思います。)

 それなら話は簡単だ。ロースクール制度を止めればいいじゃないか。

 都合の悪いところを無視して、自分の主張だけ言いつのるのなら、中学生だって出来る。井上委員には、もっと大人の議論を期待したい。

(余力があれば続けますね)。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。