法曹養成フォーラム第3回議事録から

 法曹養成フォーラムの第3回議事録が先週末に公開された。

 http://www.moj.go.jp/housei/shihouhousei/housei01_00056.html

 私は例によって、法科大学院維持派の委員に注目しているが、今回も井上委員と伊藤委員、鎌田委員が吠えている。

井上委員

「(貸与制は自分も関与し一生懸命考えた良い制度だと自画自賛し、給費制維持の主張は不可解と論じた上で)

 もう一つ,志願者減の話を川上オブザーバーはされたのですが,御発言の中でいみじくも言っておられたように,志願者が減っている最大の原因は,司法試験合格者の数が低迷というか伸び悩んでおり,合格率が下がっているということにある。社会人については特にリスクが高いわけで,そこに主因があるのに,日弁連では,他方で,合格者数を更に削減すべきだということをおっしゃっており,言っておられることが矛盾しているとしか思えません。また,法科大学院から司法試験,司法修習を経て法曹資格を得るまでに全体として5年間という長期間を要するという御指摘も,それはそのとおりなのですけれども,制度改革以前の状況を考えてみますと,大学在学中から司法試験に挑戦して受かるとしても,30歳前後になってようやく受かる。しかも,合格率は3%くらいでしかありませんでしたので,多くの人はそれでも受からなかった。その何年もの間どうやって受験勉強をしていたのかというと,多くの人は予備校に行っており,その費用だけでも当時の額で数十万円から100万円を超えるという状態で,これ以外に生活費等が当然かかっていた。例外的な人はいましたけれど,多くの人はそれくらいの状況におかれていたのです。それに比べて今の制度の方が,もちろん万全とは言えないですけれども,相当に整備され改善されていると私などは思っています。実際に学生たちと話して,なぜ法科大学院を選ぶ人が減ってきているのかと聞くと,司法試験に受かった後の給費制・貸与制の問題ではなく,それより前のほうのハイコスト・ハイリスクにあるという答えが返ってきます。ロースクールにお金が掛かるのに,司法試験に受かるかどうか分からない。こういった状況がコストに比べて非常にハイリスクだということなのです。ですから,そこのところをどうやって手当てしていくかということが,むしろ肝要なのではないかと私は考えます。」(下線は坂野が追加)

 あ~あ。どうしてこう学者の先生って、ご自身の見込み違いを認めることが出来ないんでしょうか。エライ先生ほどそうなのかなぁ。

 未だに、井上委員は、法科大学院志願者減少の原因を、新司法試験合格率の低迷に求めている。

 まず、司法試験は、法律で、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする。」(司法試験法1条1項)と決まっている。つまり、どんなに法科大学院がいい教育を仮にしていたとしても上記の学識と応用能力がなければ、どれだけ井上委員が法科大学院擁護を述べても合格させることは出来ないのだ。

 当たり前だ。法曹になるために必要な学識と応用能力が認められないんだから。

 そればかりか、実際の採点委員の意見によると、こんなレベルで実務家登用試験に合格させて良いのか不安に思う。という趣旨の意見もあるくらいだ。

 法的三段論法すら出来ていない答案が多いとは、法科大学院教育の崩壊を示す指摘でもある(平成21年度新司法試験採点雑感に関する意見参照)。フォーラムの有識者委員には、せっかくその資料をお送りしたのに、無視されたのかなぁ。それともエライ先生には、新司法試験考査委員の意見など、捨て置けという、おつもりなんだろうか。

 現実を見ない点では、もっと問題があるように思うんだけれど。

 何度も指摘しているが、井上委員が指摘している旧司法試験は、合格率が2~3%だったが、志願者は年々増加していた。合格率が志願者の数を決めるのであれば、当然旧司法試験の志願者は減少していなければならないんじゃないのだろうか。こんなかんたんな質問に、エライ学者さんは答えてくれない。奥島氏もそうだった。

 旧司法試験についても、合格者の平均年齢は30歳にはなっていなかったはずだ。

 平成元年からの司法試験合格者平均年齢は、私の資料によると以下のとおり。

 平成元年  28.91歳

 平成2年   28.65歳

 平成3年  28.63歳

 平成4年  28.22歳

 平成5年  28.29歳

 平成6年  27.95歳

 平成7年  27.74歳

 平成8年  26.35歳(但し、この年以降若手優遇枠~いわゆる丙案~あり)

 平成9年  26.26歳

 平成10年 26.96歳

 平成11年 26.82歳

 平成12年 26.55歳

 平成13年 27.42歳

 平成14年 27.52歳

 平成15年 28.15歳

 平成16年 28.95歳

 平成17年 29.03歳

 平成18年 29.33歳(旧試験)    28.87歳(新試験)

 平成19年 29.9歳(旧試験)     29.20歳(新試験)

 平成20年 29.8歳(旧試験)     28.98歳(新試験)

 平成21年 29.5歳(旧試験)     28.84歳(新試験)

 平成22年 28.8歳(旧試験)     29.07歳(新試験)

 なんのことはない。新制度になっても、30歳前後になってようやく合格することには変わりがないのだ。

 しかも新制度だと、法科大学院を卒業しなければ受験すら出来ない制度であるため、法科大学院通学~卒業のための費用がどっかとのしかかる。仕事も辞めなければ法科大学院にはまず通えない。5年間で三回失敗すれば受験資格さえ失われ、かけてきた費用は丸損だ。

 旧制度だと、仕事をしながら何度でも受験できた。つまり職業を持っている人は仕事を辞めて法科大学院に通う必要がないので、受験しやすかった。優秀な人間は長時間の回り道(法科大学院)を通らずに済んだ。当然法科大学院に支払う高額な費用も不要だった。自分の仕事と収入の範囲内で、司法試験に時間と費用をかけて実力を身につけチャレンジすることが出来たのだ。

 さて、どちらがより公平で、開かれた制度であり、どちらがよりリスクの大きい制度であり、どちらがより多くの多様な人材が法曹界を目指すことが出来たのかは、おつむの偏ったエライ先生方以外は、もうお分かりのはずだ。

 いみじくも井上委員本人が、言っているではないか。

「実際に学生たちと話して,なぜ法科大学院を選ぶ人が減ってきているのかと聞くと,司法試験に受かった後の給費制・貸与制の問題ではなく,それより前のほうのハイコスト・ハイリスクにあるという答えが返ってきます。ロースクールにお金が掛かるのに,司法試験に受かるかどうか分からない。こういった状況がコストに比べて非常にハイリスクだということなのです。」

坂野注(井上委員は無視していますが、坂野としては、新人弁護士の就職難・低収入化など、リスクとコストに見合ったリターンが見込めなくなってきた面も相当強いとは思います。)

 それなら話は簡単だ。ロースクール制度を止めればいいじゃないか。

 都合の悪いところを無視して、自分の主張だけ言いつのるのなら、中学生だって出来る。井上委員には、もっと大人の議論を期待したい。

(余力があれば続けますね)。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

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