公認会計士試験と司法試験

 インターネットの情報によると、アメリカの公認会計士(CPA)の数は、30万人を超えると言われているそうだ。日本の公認会計士の数は、約21500人、準会員9500人くらいだ。

 平成18年より実施された新しい公認会計士試験制度により、合格者を増やしすぎたとして、減員の方向の検討に入ったのは、1年半ほど前の話だ。

 欧米と比較して圧倒的に少ない公認会計士数であるが、金融庁は、次のような理由から、既に合格者を減らす方向での調整に入っている。

(以下、金融庁の資料より抜粋)

平成21年12月8日
金融庁政務三役
「公認会計士制度に関する懇談会」の開催について
1.趣旨
(1)公認会計士については、監査業界のみならず経済社会の幅広い分野で活躍することが期待されているとの考え方に基づき、社会人を含めた多様な人材にとっても受験しやすい試験制度となるよう、平成15年に公認会計士法が改正され、平成18年より新しい試験制度のもとで公認会計士試験が実施されてきた。
(参考)現行制度での合格者の推移
平成18年 1372人
平成19年 2695人
平成20年 3024人 
平成21年 1916人

(2)しかし、現状においては、合格者の経済界等への就職は進んでおらず、社会人の受験者・合格者についても十分増加していないなど、現行制度の狙いは道半ばの状況にある。また、現状のまま推移した場合、公認会計士になるために必要な実務経験を満たすことができないことも懸念され、試験に合格しても公認会計士の資格を取得できないというおそれが高まることとなる。これは、試験制度の魅力を低下させる可能性もある。
(3)こうした状況を踏まえ、公認会計士試験・資格制度等についての検討を開始するため、「公認会計士制度に関する懇談会」を開催する。

(抜粋ここまで)

 公認会計士試験に合格しても実務経験を積めなければ公認会計士の資格は得られない。それは、公認会計士としての実力を認めるところまでの教育として試験合格だけでは足りないと考えられているからだ。

 医師だって、弁護士だって、じつは、おんなじだ。医師国家試験に合格しただけでは手術は無理なのと同じで、2回試験を合格しただけでは、適切な弁護活動は(絶対無理とは言わないが)相当難しい。

 つまり、金融庁の見解は、「会計士試験に合格しただけで、オンザ・ジョブ・トレーニングが出来ないのでは有能な公認会計士となりがたい。 試験に合格しても、実務経験が積めずに公認会計士になれないのであれば、資格の魅力が薄れ、有能な人材が公認会計士を目指さなくなる。しかも、経済界のニーズがなく、公認会計士の就職難の状況にある。だから、合格者をへらそう。」というところにあるということだ。 しかも制度改正実施後わずか3年での方向転換だ。

  そもそも公認会計士試験制度を改正したのは、金融庁によると、

 「公認会計士の質を確保しつつ、多様な人材が監査証明業務やその他の監査と会計に係る業務の担い手となることを目的として、平成18年度より実施されたものである。 その他、金商法の監査義務づけや公認会計士による法定監査の拡大、内部統制の構築、M&A関連業務やコンサルティング業務において公認会計士の果たす役割の一層の拡大が見られる。さらに自治体などの公開計の分野でも役割が増大しているし、国際競争力を強化することは喫緊の過大となり公認会計士の役割は重要である。経済社会による公認会計士の質の確保と量的拡大の要請の一層増大している・・・・」ということが理由らしい。

 上記の理由をどこかで見たことはないだろうか。

「ニーズが増えると予測される、資格者の役割はより一層社会で重要となる、経済界でも自治体でも必要だし、国際競争力の観点からも増員は必要。質を維持しつつ多様な人材を招き入れる必要がある・・・・・」

なんのことはない。司法制度改革で法曹増員のために掲げられていた内容とほとんど変わらないのだ。

 分野こそ、司法と会計・監査と異にするが、司法制度改革の目的と大して変わらないのが、公認会計士の試験制度改革の目的だったのだ。

 しかし、先ほど述べた金融庁の合格者減員が必要という見解に対して、マスコミは全く批判を行っていない。

 わたしから見れば非常に不思議に思う。

なぜマスコミは、

①もっと田舎の中小企業にも会計コンサルティングなどの潜在的ニーズがあるはずだ、とか、

②公認会計士のいない市町村がたくさんあるから、合格者減少なんてとんでもないとか、

③これまで割の良い仕事しかしていなかったのだろうから、もっと他の仕事をすればいいとか、

④公認会計士はこれまで恵まれてきただけで就職難はどこでも一緒だとか、

⑤国際競争力の観点から公認会計士をとにかく増加させるべきだとか、

⑥そもそも合格者増員(試験制度改革)の理念に反するだとか、

⑦欧米に比べれば圧倒的に少ないじゃないかとか、

 その他もろもろの、司法試験合格者減員論に対するのと同様の批判を行わないのだろうか。

 それは、専門資格の濫発が専門資格の魅力を失わせ、有能な人材がその資格を目指さなくなること、その結果却って専門家全体の力が落ちる危険があることを、マスコミがホントは知っているからに他ならない、と私は思っている。

 しかし司法試験に関してだけは、マスコミは、合格者減員論に対し、ヒステリックに反対する立場を維持し続けている。

 この事実だけからも、いかにマスコミが弁護士バッシングを、好き好んで行っているかが分かると思う。

 マスコミの方が、「それは違う」というのなら、なぜ公認会計士試験合格者減員に反対しないのか、論理的に明確に、司法試験との違いを明らかにしつつ説明して欲しい。司法試験合格者減員に対してあれだけ批判的に報道しているのだから、両者の違いの根拠くらい、すぐに、簡単に示せるだろう。なぜその違いについて説明しつつ報道しないんだ。それが偏向してるってことじゃないのか。

  しかし、こういうマスコミの偏向ぶりに気付く国民の方は、残念ながら、そう多くはない。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

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