閣議決定について~その1

 私は日弁連法曹人口政策会議のメンバーに入れて頂いているのですが、そこで増員派の先生が仰る中で小耳に挟むのが、「閣議決定で増員の話が決まっているので・・・。」というお話です。

 そもそも、確かに平成14年3月19日の閣議決定には「司法試験合格者3000人を目指す」 という文言が入っています。しかしその内容は従前このブログでも記載したとおり、あくまで「目指す」という努力目標にすぎませんし、その前に、「後記の法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、」という大前提が付いています。

 つまり、法科大学院等が当初期待された機能を果たしているかどうか見定めながら、新司法試験合格者の増加を考えよう、ということです。

 ここで想定されている法科大学院とは、「豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的な法的知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力、職業倫理等が広く求められるいことを踏まえ、法曹養成に特化した教育を行う法科大学院を中核とし・・・・」と閣議決定にも記載されていることから分かるように、夢のような法科大学院がイメージされています。

今後の法曹には、

①豊かな人間性と感受性

②幅広い教養と専門的な法的知識

③柔軟な思考力

④説得・交渉の能力

⑤社会や人間に対する洞察力

⑥人権感覚

⑦先端的法分野や外国法の知見

⑧国際的視野と語学力

⑨職業倫理

 が必要なところ、法科大学院(夢)はそれを踏まえた法曹養成を行うのですから、①~⑨を身につけさせてくれるところなんだそうです(法曹養成制度の中核の法科大学院がそうでなければ、閣議決定に書いた意味がないでしょ)。

 いや~素晴らしい、凄いぞ法科大学院!・・・・・って、夢を見てんのもいい加減にしろ!と言いたくなります。

 どこかの法科大学院で自分とこの法科大学院生が有利になるように新司法試験問題を漏泄(に近い行為)をしたところがあったんじゃないのか?教える側が倫理を忘れて職業倫理を身につけさせることが出来るのか。そんなところで身につく豊かな人間性と感受性ってどんな人間性・感受性なんだ。それに、そもそも人間性や感受性が他人から教わって身につくものなんだろうか。それなら、同じ先生に教わっている大学法学部卒の人間は、豊かな人間性と感受性が身についているはずだが、大学法学部卒でも問題を起こす人はいるはずだ。おかしいじゃないか。 

 柔軟な思考力を身につけさせているのなら、どうして、司法研修所教官のヒアリングや平成22年の司法修習生指導担当者協議会で、マニュアル志向が強まっていると批判されているんだ。マニュアルに頼らずとも柔軟な思考力があれば起案くらいできちゃうんじゃないのか。

 人権感覚溢れる教育を受け、人権感覚を身につけたはずの新司法試験合格者にビジネスロイヤー志向が顕著なのは、何故なんだ。人権に敏感でなければならないはずなのに、刑事事件を馬鹿にする修習生がいるという報告がなされているのは何故なんだ。

 専門的な法的知識や先端的法分野や外国法の知見を身につけるらしいが、もしそうなら、平成22年の司法修習生指導担当者協議会で、自分の頭でいろいろ想定して考える訓練や基礎的な知識が不足しているのではないか、という指摘がなされているのは何故なんだ。基礎的知識が不足した状態で専門的な法的知識を教えてどうやって身につけさせるのか。因数分解もできないのに、微分・積分が分かるはずないだろう。

 新司法試験の合格者増の前提として、法曹養成制度の整備状況を見定めながら、と閣議決定にある以上、法科大学院には、合格者増を叫ぶ前に、以上の質問に答えてもらいたい。

 あ、法科大学院はきちんと教育しましたが、生徒が身につけませんでした、というのは言い訳になりませんからね。だって、厳格な成績評価及び修了認定をしているはずなんだから。

 確かに理想は夢みたいに素晴らしいけど、こんな法科大学院の状況では、いくら閣議決定があっても、新司法試験合格者3000人を目指すことは事実上不可能でしょ。

 前提条件が満たされていないんだから。

 閣議決定の法的効果についてはまた今度。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

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