法曹養成制度再検討~その5

(続きです)

 法務省の法曹養成制度に関する検討ワーキングチームが、法科大学院について、まとめた問題点は次の通りです。

ア 法科大学院の志願者が大幅に減少する中で、法学部の学生以外の志望者も減少しており、多様な人材を多数法曹に受け入れるとの理念に支障が生じている。

イ 一部の法科大学院において、入学者選抜の競争性が不十分であり、入学者の質の確保に問題がある。

ウ 新司法試験の合格率が著しく低迷している法科大学院があり、また、一部の法科大学院に於いて、厳格な成績評価及び修了認定を行っていない。

エ 一部の法科大学院において、質の高い教員を確保できていない。

オ 認証評価については、確認証機関の間で評価にばらつきがあり、評価内容についても形式的な評価にとどまっているものもある。

★坂野の分析

ア 法科大学院の志願者減少は危機的です。H15年度の法科大学院適性試験志願者は59393名、H22年度は16469名です。最初の年に一気に志願者が集中していたとしても、ほぼ72%の志願者減少(簡単に言えば約四分の一に減少)は、異常事態でしょう。また、前述したとおり。H18~H20の新司法試験では非法学部率は約11~23%、平成15~19年度の旧司法試験でも非法学部率は約15~23%(ちょっと古い資料しか見当たらず)なので、この資料から見る限り、法科大学院+新司法試験になったから多彩な人材が確保出来るようになっているとは到底言えない。法科大学院制度が少なくとも多様な人材確保という理念実現に、何ら寄与できない制度であることがもはや明らかになってきています。

イ 司法改革審議会意見書では、「法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学」するのが法科大学院とされていましたが、すでにそのような資質を持たない者まで受け入れなくては法科大学院が成り立たない現状が明示されています。これでは、法曹養成の理念実現よりも、大学経営を優先させているといわれても仕方がないのではないでしょうか。

ウ 司法改革審議会意見書では、法科大学院において「厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提として・・・充実した教育を行うべきである。厳格な成績評価及び修了認定については、それらの実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきである。」とされていました。不可欠の前提が「厳格な成績評価及び修了認定」だったのですが、それすら満たさない法科大学院が存在している事実が明らかになっています。結局「厳格な成績評価及び修了認定」の実効性を担保する仕組みも何ら意味がなかったということになりましょう。おそらく「厳格な成績評価及び修了認定」をしてしまえば、生徒が激減してしまい、学費収入が落ち込むという背景もあるのでしょうが、もしそうなら、理念より経営を優先させていると批判されても文句は言えないでしょう。そうでないとしても、落第させたらかわいそうだという温情で、制度の趣旨を曲げることは許されないはずです。法曹の質の維持できることが法曹増員の大前提であり、法科大学院は、「法曹の質を維持できる」と大見得を切っていたのですから。
 いずれにせよ、法科大学院において、不可欠の前提とされていた「厳格な成績評価及び修了認定」ができないのであれば、法科大学院の存在意義は無いと言われても仕方がないでしょう。さらに言えば、実務家教員以外の教員の90%以上が司法試験の合格体験も、司法修習の体験もないのですから、実務法曹に必要な力がどのレベルか解らない法科大学院教員も多いのです。そのような方が「厳格な成績評価及び修了認定」をしたと言われても、そもそもどのレベルを目指すか知らないのですから、その方の言われる「厳格」は意味が無いとも考えられます。

エ 問題点として一部の法科大学院のみ質の高い教員が確保できていないと指摘していますが、現状として、特別委員会報告によれば、多くの法科大学院で、法律基本科目・先端科目の専任教員の確保が困難になりつつある、とあります。法律の基本すら教えることが困難になりつつある法科大学院って、一体どんな存在意義があるのでしょうか。教育水準の保証すら出来ない法科大学院に、多額の税金を投入する意義はどこにあるのでしょうか。

オ 司法制度改革審議会意見書では、「入学者選抜の公平性、開放性、多様性や法曹養成機関としての教育水準、成績評価・修了認定の厳格性の確保するため、適切な機構を設けて、第三者評価(適格認定)を継続的に実施すべき」であり、その「仕組みは新たな法曹養成制度の中核的期間としての水準の維持、向上を図るためのもの」とされていますが、現状では、評価にばらつきがあるそうなので、何を基準に適切な評価をすればいいのか明確になっていない可能性があります。さらに、形式的評価に止まるものもあると指摘されていますが、そんなザル評価を受けて、仮に適格認定を受けたとしても、果たして大丈夫なのか、という疑念を払拭できません。結局、第三者評価の形は整えているものの、どこまで機能しているのかは、誰にも分からない状況なのではないでしょうか。

 これら問題点についての法科大学院側の改善策(案)については、「とりまとめ」を読んで頂くこととしたいと思いますが、結論的にはおそらくその程度の改善策ではなんにも変わらないのではないかと思われる程度の改善策しか提示されていないように思います。

※記載内容については、全て執筆者の個人的な見解に基づくものであって、当事務所の統一した見解・意見ではありません。

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