法曹養成制度再検討~その3

(前回の続きです。)

(3)教員組織

 ア 理念

   法科大学院での教員資格に関する基準は、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものにすべき。教育能力、教育意欲および教育実績を重視した採用が必要。設置基準は専攻分野について、教育上又は研究上の業績、高度の技術・技能又は特に優れた知識および経験を有するものであり、かつ高度の教育上の指導能力があると認められる専任教員を置かなければならない、とされている。

 イ 現状

   多くの法科大学院で法律基本科目や展開・先端科目の専任教員の確保が困難。小規模法科大学院(特に地方)では、単独で質の高い教員が十分確保できず教育水準の継続的・安定的な保証について懸念が生じている。

※ 坂野の分析

 法科大学院導入の際に、マスコミは熱に浮かされたように、何の根拠もなく、こぞって質の高い法曹を生み出す制度として法科大学院を紹介し、法科大学院側も法曹の質を維持することができると豪語していました。

 しかし、法科大学院を積極的に推進・擁護してきた立場にある文科省下の中央教育審議会(私の記憶では、日本の知的水準を大幅に低下させた「ゆとり教育」導入にも加担していた審議会)にある、法科大学院特別委員会の報告によってすらも、実際には多くの法科大学院で、法律基本科目でも、展開・先端科目でも専任教員の確保が困難だそうです。プロセスによる教育を重視したはずの法科大学院で、教育できる実力のある教員が確保できない状況では、法曹の質が維持できるはずがありません。ごく一部の特別に優秀な方を除けば、教える方に実力がないにもかかわらず、教え子だけ実力がつくはずがないからです。

 また、法律基本科目と展開・先端科目と書かれれば、その部分だけ教員が不足しているように思われますが、何のことはありません、全ての教育分野で(能力のある)専任教員が不足していることを言い換えているだけに過ぎません。はっきり言えば、多くの法科大学院では、全ての教育分野において、きちんとした実力と教育能力を持つ教員を確保できていないということです。

 特に小規模・地方の法科大学院では教育水準すら維持できない状況にあるということですから、法科大学院を地方に作れば地域偏在が解消するという考え(法科大学院制度のメリットとしてあげる方もおられたはずです~私はもともと夢物語だと思っていましたが)は、現実的にも実現困難だということです。

 能力のある専任教員が限られている以上、法科大学院制度の失敗を認めて法科大学院を廃止するか、法科大学院を自体を3分の1から5分の1程度まで大幅に削減するしか、法科大学院による法曹養成制度を維持することは困難であるはずです。

 法科大学院側は、制度の手直しや定員削減で対応できると主張しているようですが、そもそも、制度設計の時点で過ちを犯した方が、どんなに次は大丈夫だと言い張っても信用できるはずがありません。また、法科大学院側はどんなに教育が駄目で、(全体として)質の高い法曹を生み出すことができなくても、(投下した資金を回収できずに)被害を被るのは法科大学院制度が廃止・縮小された場合に限られます。法曹養成の結果に問題があっても法科大学院側が被害を受けるわけではありません。弊害を被るのは、国民全体なのです。そのような利害関係にある法科大学院側の方に、法科大学院の評価について適切な判断をするよう求めることは、それ自体無理でしょう。 

 仮に、質の高い法曹を生み出すための方法として、プロセスによる教育という理想が正しいとしても、現実にその制度が機能していない以上、弊害の方が大きく、その弊害による傷口が大きくならないうちに改めるべきです。

(続く)

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