「星守る犬」~村上たかし

 知人に勧められた漫画である。 ネタバレを避けるために内容には詳しく触れない方が良いと思う。

 犬好きの方には、辛いお話かもしれないし、絵柄が好みでない方もいらっしゃるかもしれないが、この漫画を、どうか、まずは一度真っ白な状態で、読んで頂きたい。

 あとがきで、作者の「村上たかし」さんは、こう述べている。

 ~(前略)自分で書いててなんですが、作中の「お父さん」は、こんな結末を迎えなくちゃならないほど悪人じゃありません。ちょっと不器用だけど、普通に真面目なタイプ。ただ、ほんの少し、家族や社会の変化に対応することを面倒くさがったり、自分を変えることが苦手だったり・・・というだけで、昔なら、いたって平均的な良いお父さんです。しかしそれが、いまでは十分「普通の生活」を失う理由になり得るようで、本当につまらないことになってきたなあと思うのです。ちやほやしろとは言いませんが、普通に真面目に生きている人が、理不尽に苦しい立場に追いやられていくような、そんな世の中だけは勘弁して欲しい。と、やるべきことすらちゃんとで出来ていないダメな僕は、切に思うのです。(中略)計算やかけひき無しで、こっちが申し訳なくなるくらい真っ直ぐに慕ってくれる犬。僕自身も愛犬にどれだけ救われてきたかしれません。傍らに犬。二人は絶対に幸せだったと思います。(後略)~

 普通に真面目に生きてきた「お父さん」。私もそう思う。

 普通に真面目に生きてきた人が理不尽に苦しい立場に追いやられていくような、そんな世の中になりつつあることも、私は同感だ。

 お話の途中で、お父さんが犬に語る。

 「落ち込んでいるのは、断じて金がなくなったからじゃねーぞ。素直に甘えられなくなっているあの子が悲しすぎるんだ。」

 どうしてこのような考えが出来る人が、辛い目に遭わなくてはならないんだ、どうしてこうならなくちゃいけなかったんだ、と、物語の結末に怒りを覚える人も多分いるだろう。

 結末は悲劇に思えるかもしれない。読者は涙をこらえきれないかもしれない。

 しかし、作者が、「お父さんと犬」とか、「一人と一匹」と言う表現ではなく、「『二人』は絶対に幸せだったと思います」と述べているのだから、私達読者はそれを信じ、このお話から感じる「何か」を大事にしていかなければならない、そんな気がする。

双葉社 762円(税別)

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