法科大学院と奨学金~その2

 (法科大学院と奨学金~その1からの続き)

 そうでなくても、現在過払い金訴訟を除けば、民事訴訟は減少の一途ですし、倒産処理案件も横ばいです。企業も不況のためか、なかなか弁護士を採用しません。法律問題は当初の予測(近いうちに欧米並みに法律問題が多発する社会になるという予測)よりも大幅に下回っているのです。国民にさほど必要とされていないかも知れない法曹を育てるために法科大学院に手厚い給付を行うのは、果たして正しいのかとすら思えます。

 簡単に言えば、旧司法試験+司法修習という制度は、誰もが受験できる(丙案を除けば)公平な司法試験に頑張って合格した人を、お金をかけて一人前の法曹になるよう、司法修習を受けさせてきたようなものでした。試験に合格するまでの実力は、自分で身につけてもらい、その実力を身につけた人を育てる方式です。

 例えとして適切かどうか分かりませんが、誰もが公平に参加できる田んぼに籾をまいて、自力で育った稲の内、上位数%の育ちの良い稲だけを司法試験で選別して残し、その稲に十分な肥料と水(費用と時間)を与えて、実がなるまで育てる(司法修習)ような方式でしょう。

 ところが法科大学院方式は、入学時点でのある程度の選別こそありますが、田んぼに籾をまいて、育つかどうか分からない時点から肥料と水(費用と時間)を与えて育て、そのうち約30%の育ちの良い稲を新司法試験で選別し、さらに肥料と水を与えて育てる(司法修習)方式です。新司法試験受験時点で、せっかく育てたものの、水準に達しなかった70~80%の稲は(法務博士としての知識は認められるかも知れませんが、社会がそれを評価しないのであれば)無駄になる危険性があります。また、そうなれば、水準に達しなかった稲に与えた水と肥料は馬鹿になりません(さらに、実ろうと頑張った稲にも相当の負担~法科大学院費用と時間~がかかっています)。

 このようなことを書くと、それでは、プロセス重視の教育という趣旨に反するのではないかとの、反論が法科大学院を支持する方からありそうです。しかし、プロセス重視の教育とはどんなもので、どれだけ有用なのか明らかになっているのでしょうか。なんとなく、プロセスによる教育が良いと思いこんでいるだけではないのでしょうか。司法試験予備校の弊害を指摘してプロセスによる教育充実した教育を目指したのが ロースクール制度だっのでしょう。しかし、ロースクール制度が長期間運用されているアメリカでも、司法試験予備校は存在するそうです。

 私は、プロセス重視の教育がどんなものか分からなかったため、大阪での日弁連会長候補公聴会で、ある候補者に聞いてみました。お答えは、勉強と併行して法律相談などの実地体験を積ませることなどを、プロセス重視の教育の例として説明を受けました。通常の講義による教育に比べて費用も時間もかかるようです。

 でも、実際の法律相談なんて、私達旧司法試験合格者も司法修習時代にやっています。弁護修習時代にそれこそ本当に事件に直面している依頼者の方に対し、指導弁護士と一緒に必死で解決を考えることを私達もやってきました。これまでの制度でも、旧司法試験合格後、法曹になる前の段階で十分プロセス重視の教育は行われてきていたのです。

  プロセスによる教育が必要と仮定して、①ほぼ確実に法曹になる力を身につけた人間を選抜してその人材にプロセス重視の教育を与えるのが私達の時代の旧司法試験制度、②とりあえず結果が出るかどうかを考慮せずプロセスによる教育を与えてそこから選別しようとするのが、現在の法科大学院制度である、とも言えるかも知れません。

 プロセスによる教育に時間も費用もかかることを考えれば、いずれの方が無駄が多いかは、明白です。

 誰かの援助か、返済不要の奨学金を得ない限り、受験生に奨学金という名の借金を負わせる現行制度が、本当に多様な人材を、一定の水準を保って法曹界に供給するに相応しいものなのか、私には分かりません。

 確かに、法科大学院側の先生は功成り名を遂げた学者の方が多く、その発言に重みがあることも事実です。しかし、これまでの教育とプロセス重視の教育が違うものであるならば、いくらエライ学者さんでも、法科大学院での教育については、まだ始まったばかりの素人です。

 既に猫専用のドアを自宅に取り付けていたにもかかわらず、子猫が生まれた際に、アインシュタインは、子猫用のドアを作るように指示したという笑い話があります。この話にもあるように、エライ学者さんでも間違うことはあります。絶対と言うことはありません。

 法科大学院側の言い分ばかりを(報道したり)聞くのではなく、きちんと冷静に何が一番国民のために必要なのか、という視点で考え直す必要があるのではないでしょうか。

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