法科大学院と奨学金~その1

 かつて、法科大学院制度を導入する際に、高額な学費を支払えるお金持ちしか弁護士・裁判官・検察官になれなくなってしまうのではないか、という危惧があったと聞きます。

 これに対し、法科大学院制度を推進する方々は、奨学金制度を充実させるから大丈夫だと、仰っていたように記憶しています。

 果たして、本当に大丈夫なのでしょうか。奨学金は確かに返済しなくて良いものもありますが、多くは返済義務があるものです。また日本学生支援機構の奨学金は、無利子の奨学金もありますが、当然有利子(固定利率ですと年利約1.4~1.8%)のものもあります。

 つまり、親の援助のない人は、借金して法科大学院に通ってね、というのが学生の金銭面から見た法科大学院制度です。当然裕福な親御さんばかりではないので、法科大学院を卒業した時点で、奨学金という名の借金を背負った卒業生が多数出ます。その卒業生が、新司法試験に合格すれば、司法修習生となり弁護士・裁判官・検察官への道を歩き始めます。

 新司法試験に合格できなければ、法科大学院を卒業した法務博士の称号と借金だけが残ります。一方、新司法試験に合格したからといって奨学金の返済が免除になるわけではないので、借金を背負って司法修習生活を1年間送ることになります。

 奨学金という名の借金をどれだけ背負って、司法修習生になっているかについて、日弁連はアンケート調査を行っていますが、公開はされていません。私は、その内容を見せて頂いたのですが、結構ショッキングなデータが載っていました。

 さらに、2010年11月採用の司法修習生からは、司法修習中の給与もなくなりますので、司法修習をしている1年間は誰かの援助か借金をして生活しなければなりません。司法修習生には修習専念義務があり、アルバイトすらできないからです。

 法科大学院で借金をし、さらに司法修習で借金をする。おそらく、相当多額の借金(人によっては1000万円を超えると思われます。)を抱えて弁護士になる人が、今後多く見られるようになるでしょう。そのような弁護士達に、社会正義や人権のために仕事をしろ、といっても無理です。誰だって自分の生活がまず大事だからです。家族がいればなおさら借金の返済を優先的に考えるはずです。

 弁護士の仕事には、他人のお金を扱う仕事も当然入ります。その場合に(制度変更の犠牲になった)弁護士が、儲け第一主義に走っても、責めることはできないように思います。働いて、まず借金を返さなければならないからです。

 借金返済に必死にならざるをえない弁護士が巷にあふれかえることは、本当に国民の皆様のためになるとは私には思えません。私は少なくとも、司法修習中は給与を与えるべきではないかと思います。

 この点、厳しい国家財政の中で、司法修習生に給与などとても出せないという御意見があるかも知れません。しかし、法科大学院に対して手厚い給付をしているのであれば、その給付を回せば足るのではないでしょうか。

(続く) 

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