日弁連会長選挙~その2

~お断り~

 まずお断りしておきたいのは、各論点について論じ始めればきりがないので、簡単にまとめてしまっている部分が相当あるということです。また、この記事は、両候補の政策・意見に対する個人的感想を述べたものであり、いずれかの候補を応援するものではないということです。両候補の正確な御主張については、日弁連HPを是非ご参照下さい。

☆法曹人口問題について

・宇都宮候補は、この問題について、弁護士の質が低下すれば被害を最も受けることになるのは市民であるという見地、実務教育・実地訓練(OJT)のキャパシティの観点から、「司法試験合格者数を減らす。」と明言されています。
 しかも、現状維持路線ではなく、「合格者数を1500~1000人まで減らすという各弁護士会・ブロック弁連の決議など地方の声にも耳を傾け、法科大学院生や卒業生にも配慮しつつ、現状よりも司法試験合格者数を減らします。」と主張されます。

・山本候補は、この問題について、社会の経済的要因からこれまでの合格者増員は、司法に様々な「ひずみ」を発生させており、その是正のために必要な修正は行うべきという観点から、かつて掲げられた「司法試験合格者数年間3000人の目標は現実的でも妥当でもない」として見直しを提言します。また、司法試験の合格者数について日弁連が主張することについて「(前略)法科大学院制度や未だ途上の司法改革の実践に大きな影響を与える虞があるので慎重であるべき」としつつ、「「ひずみ」の是正に必要であれば、現状の合格者数にこだわらず更なる削減の方向の提言も含めて対応すべき」と主張されます。

まず一見して、お分かりでしょうが、宇都宮候補の方が主張が、より明確です。

宇都宮候補は、司法試験合格者数を減らす必要性の根拠を、まず合格者の質を維持する必要(優秀な人材確保)、次に実務教育や実地訓練(OJT)のキャパシティを(確保した人材を一人前に育てるために)超えない人数にすることが、弁護士の質の維持のために必要であり、それは市民の利益のためにこそ必要であると主張して、現状の司法試験合格者数より減らすことを明言しています。さらに、従前の予想ほど法的需要が増大していないことを指摘して、「日本でも潜在的に他の先進国並みの法的需要が存在する→先進国並みに法曹人口を増加させれば潜在的な法的需要は顕在化する(=それが国民の幸せになる)」という、これまでの前提が適切なのか再検証すべきと主張します。

一方、山本候補は、現状の司法試験合格者数より減少させることについて明言は避けています。また、昨年の司法試験合格者数が閣議決定の目標値を下回っていることから、司法試験合格者3000人の目標は、既に大きく揺らいでいますが、敢えてその揺らいだ目標をもう一度持ち出して、その目標を見直すことを提言されており、この部分がどれだけの意味を持つか明確ではありません。さらに、「ひずみの是正に必要があれば」という条件付きで「現状の合格者数にこだわらず更なる削減の方向の提言も含めて」対応すべきというものですから、仮に現状の合格者数より削減する提言をするにしても、相当な留保が付されていると考えるべきでしょう。さらに、「更なる削減の方向の提言も含めて対応する」とは、具体的にどのようなことをされるのか分かりません。おそらく、これまでの日弁連執行部が推進してきた従前の司法改革路線をできるだけ忠実に踏襲しようとお考えのようです。

 (但しこの点につき、たまたま立候補前に、大阪に来られた山本候補に質問する機会があり、そのときのお返事から考えると、山本候補ご自身は、法曹人口問題に相当危機感をお持ちのようでした。しかし、これは全くの推測ですが、これまで司法改革路線で突っ走ってきた主流派からの立候補なので、各種しがらみから、思い切った提言ができない状況におかれているのではないか、という印象を(私個人は)受けました。残念ながら宇都宮候補に直接お話を聞く機会がこれまでなかったので、宇都宮候補の印象については全くの白紙です。)

 なお、山本候補のいう、様々な「ひずみ」とは、①弁護士人口の増大と国民のニーズの結びつきが十分でないこと、②新人弁護士の就職難などからOJTが困難になりかつ、経済的に困窮する弁護士の相当数の出現、③法曹養成制度未成熟による、法曹の「質」に対する懸念であると説明されます。②・③については宇都宮候補とほぼ同じ内容です。
 ①については、宇都宮候補は、国民のニーズ自体を検証すべきとするのに対し、山本候補は国民のニーズ自体は間違いなく存在するものという前提で考えられているようです。この点でも両者のとらえ方に違いがあります。

 以上見てきたとおり、法曹人口問題に関する政策意見では、宇都宮候補の意見の方が山本候補と比較してより明確に方針を示している(さらに法曹人口問題についての専門会議の設置も公約している)という点では、評価できるのではないでしょうか。

 かといって、宇都宮候補としても、具体的にどれくらい司法試験合格者を削減すれば良いかについて明確な具体的数字があげられているわけではありません。また、山本候補が仮に当選した場合に、しがらみを断ち切って大化けする可能性も絶無ではないかもしれません。

 今後の両候補の御意見を十分聞く必要があるかと思われます。

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