「新釈現代文」~高田瑞穂著

 幸いにも、新宮高校時代に良き現代国語の先生(舩上光次先生・中谷剛先生)に恵まれたこともあり、私は現代国語は相当得意な科目だった。

 現代国語は、特に参考書を読まなくても、問題集を解いていれば、そこそこの成績が取れていた。それで慢心したわけではないだろうが、一時、現代国語の成績が落ちたときがあった。なまじ得意科目だっただけに、どうすれば成績が上げられるのか分からず、大いにうろたえたものだ。

 そんなときに、まさに救世主となったのが、新塔社という聞き慣れない出版社から出されていた、この「新釈現代文」という現代国語の参考書である。

 「新釈現代文」昭和34年に初版が出版されており、当時高校生だった私が手に取ったときですら、初版からすでに25年近くも経過しているような、まさに、現代国語参考書の古典であった。
 黄緑色のカバーが掛けられたこの参考書を、受験情報誌か何かでみつけ、購入することになったのだが、実物を見てみると、参考書というには薄すぎるし、使われている日本語も古そうで、果たして本当に役立つのか不安に思えたことも事実である。

 しかし、「新釈現代文」と出会ってからは、現代国語に関して、他の参考書は一切不要だった。時折自分の現代文に対する感覚が鈍ってきたと思ったら、新釈現代文を再読すれば足りるようになった。それだけの威力があった参考書だったのだ。

 この「新釈現代文」は、入試現代文読解の最も正しく、最も有力な方法である、と著者が信じる「たった一つのこと」ただそれだけを、入試問題を材料に、じっくりと説明・解説・実践していく、異色の参考書だった。著者は、現代文に対する読者の目が開かれ、骨が飲み込めさえすれば事足りるのではないか、一旦目の曇りが晴れ、焦点の合わせ方が解りさえすれば自然と力が蓄積されていくのではないか、と考え、現代文に対する受験生の目を開かせ、焦点の合わせ方を情熱を持って指導していく。当時の東大・京大受験生の中にも、「新釈現代文」を手に取った人はおそらく多いはずだ。

 この間、書店で本を見ていたら、ちくま学芸文庫から、「新釈現代文」が復刻出版されていた。思わず懐かしくなって買ったのだが、すでに復刻出版後数ヶ月で5刷と、好調な売れ行きのようだ。

 確かに今読み返すと、「新釈現代文」が、現代思想と捉えているのはすでに「50年ほど前の現代思想」であって、今の時代の受験国語に即応するとは思えない部分もある。しかし、「新釈現代文」で語られる「たったひとつのこと」という入試現代文読解に関する方法論は、今でも十分通用するのではないかと思われる。

 現代国語に迷っている高校生がいたら是非勧めたい本である。

 ちくま学芸文庫(税別1100円)

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