大手の法律事務所陣容拡大?

 昨日の、日経新聞夕刊に、「法律事務所陣容広げる」との表題で、いわゆる5大法律事務所が2005年以降、弁護士数が1.6倍になった、高品質な法務サービスの需要は今後も拡大しそうで、事務所の間で人材の争奪戦が激しくなりそうだ、と記事は書いている。

 私は5大事務所の中身は知らないので、弁護士数については記事の内容が正しいと考えるしかないのだが、大手事務所だけが弁護士を増やしているわけではない。

 実は、弁護士人口は、2005年以降全体で7000名、全体としてみても1.34倍に増加している。今年弁護士になる人数がおそらく2000名以上あるだろうから、その数を含めると、1.44倍の増加になる。大手事務所に就職する人数も増えているのだろうが、就職できない司法修習生も増加中であることは間違いないだろう。

 あと、日経新聞の記事の書きっぷりで、誤解を与えるように思われるのは、「大手事務所=高品質なリーガルサービス」と、単純に結びつけていることだ。

 弁護士の仕事は職人技的な部分もあり、大手事務所向きの仕事も当然あるが、必ずしも大手事務所の仕事が全てにおいて最高品質とは限らない。例えば、茶碗を焼くような独特の職人技が必要とされる部分も弁護士の仕事にはあり、大手事務所以外の法律事務所が分野によっては群を抜く処理を行える場合もあるのだ。

 また日経新聞は、その性格上、企業を重視した記事を書かざるを得ないので仕方がないのかもしれないが、それだけ陣容を強化した大事務所が、プロボノ活動(公共に役立つ法律家活動)でどれだけ活躍したかに関しての記事は、残念ながら書かれていない。

 私は、某上場企業の方とお話しさせて頂いた際に、こういう話を聞かされたことがある。

 「確かに、東京の大事務所よりも大阪の事務所の方が、いいな、と思う場合もあります。しかし、万一のことがあった場合、どうして東京の大事務所に頼んでおかなかったのだと責任を問われる危険があるので、その危険を避けるためには、やむを得ず東京の事務所に頼まざるを得ないのです。」

 さらに、こういう苦情を、某元上場企業で法務担当の友人から聞かされたこともある。

 「最近、東京の大事務所に相談に行ったところ、顧問弁護士と、なんにも分かっていない新人弁護士二人と一緒に対応された。別に、経験を積ませるとか理由はあるだろうから、それはそれで良いんだが、何も分かっていなくて話を聞いているだけの新人弁護士二人のタイムチャージ(要するに3人分のタイムチャージ)まで請求されたんだ。おかしいんじゃないですかと指摘したら、新人弁護士のタイムチャージだけは半額になった。それでも法律相談に全く役立たなかった新人にもお金を払うよういわれるのは、納得できないんだよね。」

 もちろん、大事務所はそれだけの人員を擁し、コストをかけて運営されているのだから、大事務所を利用する場合のリーガルコストは高くなる可能性が高い。そのようなリーガルコストは、一旦はクライアントである企業が負担するが、企業が自腹を切ってくれるわけではない。最終的にはその企業の製品などに転嫁されて国民の負担になっていく。

 弁護士が増えればリーガルコスト(弁護士の費用)が下がるという幻想は間違っている。以前も書いたが、マイクロソフトの年間経費のうち半額以上がリーガルコストであった年度もある、という話を聞いたことがある。私から見れば、異常な社会である。

 弁護士の激増は、目に見えるかどうかは別にして、リーガルコストの高騰を結果的に招くだろう。大手の法律事務所の陣容が拡大したからといって単純に喜んで良いのか、私には分からない。

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