さる確かな筋からの情報によると、ドイツでは、弁護士資格を大量に与えて弁護士を増やし、ドイツ以外の外国弁護士にも門戸を開放した結果、ドイツの大手法律事務所のほとんどが英米系の巨大事務所の傘下に組み入れられてしまったという状況になっているらしい。
英米系の巨大法律事務所は、その巨大な事務所を維持するために高額のフィーを顧客に要求する傾向にあると聞いたことがある。また、アメリカの法律事務所は、いかに正義を実現するかということよりも、いかに事務所の稼ぎにつなげるかを優先しているともいわれている。
英米系の事務所の、法律を手段とする稼ぎの方法は徹底しているそうだ。
たとえば、うちの事務所(イデア綜合法律事務所)では、弁護士同士が各自が担当している事件について様々な疑問があれば、お互い意見を交換してよい解決を目指そうと努力している。
ところが、アメリカでそのようなことをやると、今の相談のフィーはどの依頼者に請求すればいいのだ、となるそうだ。
「専門家が、正義を失いかつて弁護士と医者、会計士は自らを公的責任を伴う民間プロフェッショナルとみなしていた。自分の事務所のためだけでなく、社会全体にとって善か否かを考えながら責任感を持って行動していた。弁護士は、時間を浪費する訴訟ややみくもな買収を考え直すよう依頼人に助言することさえあった。今や弁護士だけではなく、あらゆる専門家が変わってしまった。」とニューズウイーク紙(日本版)で嘆かれているように、現在のアメリカの弁護士は、時間を浪費する訴訟や、闇雲な買収であっても依頼者に勧める(その結果法律事務所は儲けにつながる)現状すらあると思われる。
また、今の日本の法律事務所では、裁判所に提出する書面や証拠のコピー紙料金・コピー代金を依頼者に請求するところは、私の見たところあまりないように思う。仮にあったとしても、法律事務所も実際にコピー代金が1枚いくらでかかっているのだから、実費を請求することは決しておかしくはない。
しかし、アメリカでは、裁判所に提出する書面のコピー代金につき、コピー実費に当然のようにコピー手数料を上乗せして顧客に請求している。しかも、大事務所ともなれば、莫大なコピーをするから、そのコピーに関する収益が相当巨額になっている場合もあるそうだ。
また、国際的に活動する日本企業のリーガルコストの大半はアメリカの弁護士に支払われているとの話を聞いたこともある。裏を返せば、日本の弁護士費用はアメリカに比較してべらぼうに安いといっても過言ではないだろう。
話を戻すが、英米系の巨大ローファームに組み込まれたドイツの弁護士は、巨大ローファームの方針に逆らえないから、やむなく、巨大ローファーム流の儲け主義に走らなければならなくなるだろう。つまりドイツは司法占領を受けてしまったということだ。
司法占領を受けてしまえば、良くも悪くも占領してきた国に有利な制度・流儀が幅をきかせ始める。今後ドイツ企業がアメリカ企業と交渉するにしても、アメリカ企業の代理人もドイツ企業の代理人もアメリカ巨大ローファーム系列の弁護士であった場合、交渉の流儀はアメリカ流になろう。ドイツのやり方は、もはや通用しなくなると思われる。そうなると、アメリカ企業は楽だ。自分のやり方を相手に押しつけることができる。熾烈な競争をしている企業の間で、自分の土俵で相撲を取ることほど有利なことはないだろう。司法占領を受けることは、長い目で見れば、ドイツ企業・国民にとって決してプラスにならないようにも思われる。
そればかりではない。ドイツのリーガルコストは、おそらく高騰するだろう。巨大ローファームが進出してくるのは、慈善事業を行うためではない。法律を手段に儲けるために進出してくるのだ。高額のフィーを取る巨大ローファームが、進出先のドイツ国民に対してだけ格安のサービスを行うはずがない。仮にそうしていても顧客を既存の法律事務所から奪い去るまでの間だけだろう。
今、日本にもその流れが押し寄せつつある。日弁連でも外国弁護士制度研究会で研究がなされている。
だが、司法占領はいきなり行うことはできない。ターゲットとなる国の司法が健全かつ強固であれば、そこに進出することは難しい。巨大ローファームがいきなり進出して高額なリーガルサービスを売ろうとしても、ターゲット国の司法が金儲け主義でない場合、儲け主義が通用しない可能性もあるからだ。つまり、司法占領を行って巨大ローファームが進出するためには、ターゲット国の司法(特に弁護士)が金儲け主義に染まっている方が都合がいいはずだ。
しかも、司法を民間の立場から支えている弁護士を金儲け主義に染めることについては、万国共通の簡単な方法がある。規制緩和や自由競争名目で大量に増員させて、弁護士が正義よりもお金儲けに主眼を置いて頑張らないと食えないようにすればいいだけだ。
よく、弁護士も自由競争をすれば価格が下がるのではないかという人もいるが、必ずしもそうではない。もしそうなら、アメリカでは弁護士費用はきわめて安くなっていなければおかしい。しかし、実際はアメリカにおけるリーガルコストはきわめて高額になっていると聞いている。
こう考えてくると、在日米国商工会議所(ACCJ)が、なぜ内政干渉に等しい弁護士増員を日本政府に求めているのかが見えてくるような気がする。
司法占領の地ならしが進んでいるような気がするのは、おそらく私だけではないはずだ。