余計なお世話??~その7

 ACCJは、法曹数と国民数の比率において、日本は著しく低いのだから、法律家は不足していると主張するようです。
日本のマスコミも、この法曹の数と国民の数の比率を持ち出して、日本は法律家が少なすぎると主張することが良くあります。

 確かに、国民の数を法曹の数で割って、法曹一人あたりの国民の数で比較することは、一見分かりやすく、なんの問題もなさそうです。

 しかし、この主張は、意図的にねじ曲げられた主張であることに注意すべきです。

 既に私の2008年10月8日のブログ
http://www.idea-law.jp/sakano/blog/archives/2008/10/08.html
でも書きましたが、法曹一人あたりの国民数の比較は、隣接士業(税理士・弁理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士など多くの隣接士業)や企業法務部におられる方など、法律業務に実際に携わっている方々を意図的に排除して計算されているのです。

 「司法の崩壊」を書かれた河井克行元法務副大臣の計算によれば、アメリカで弁護士が従事し、解決を行っている問題や仕事に関して、日本で同様の問題に従事している法律関連職種の人数を計算すると、弁護士・隣接士業・企業法務部員なども含め、およそ、27万人になり、人口比で計算すれば、日本は世界でもアメリカに次いで法律家の多い国と言えるそうです。

 分かりやすく例えていえば、アメリカ・フランスではスポーツカー(弁護士)でなんでも用を足してしまう(法律関連問題を解決しようとする)文化があり、日本では用途(法的問題・分野)に合わせた自動車(弁護士・隣接士業・企業法務部員など)を用いるという文化があるのです。

 その文化や制度の違いを無視して、「日本では6748人に1台の割合でスポーツカーが所有されているが、アメリカでは248人に1台の割合、フランスでは1476人に1台の割合でスポーツカーが所有されているから、比較すると日本では自動車が全く普及していない。だからもっとスポーツカーを普及させろ。」と主張したとしたら、その主張は、わざとある結論へと誘導したいための主張か、お馬鹿さんの主張かのいずれかでしょう。
 自動車の普及は人口と自動車の台数全てを考慮に入れて初めて分かる問題であって、人口とスポーツカーの台数だけの問題ではありません。普通の自動車、軽自動車、トラックなども含めて全てで判断されるべき問題です。そして、用途に応じてどのような自動車を利用するかはその国の文化の問題でもあります。

 さらに、ACCJは韓国の弁護士増員を高く評価しているようですが、既に、韓国では弁護士が大量に余ってきており、お金さえもらえれば受刑者の執事のようなことをやる弁護士や、月額4000円程度の弁護士会費用すら払えない弁護士が増加して、問題になりつつあるそうです。しかし、このような韓国の実情について、ACCJは全く触れていません。
 ACCJ加盟企業が韓国で訴訟を行う場合に、そのような弁護士に、自分の大事な事件をまかせることができるのでしょうか。

 以上のように、一見してもっともなACCJの主張ですが、子細に見ていくと論拠が不明確であったり、意図的なデータの利用法など、明らかに一つの方向へと結論を意図的に誘導するものです。

 そして、外交問題の報道を見れば明らかですが、国同士の熾烈な駆け引きは、本質的には、それぞれの自国の利益を守らんがためです。ACCJが米国企業の意思を色濃く反映する団体なのであれば、米国企業に有利になる提言しかするはずがありません。企業は国家と異なって営利団体であり、利益を上げることが本来の目的ですから、なおさらその傾向は強いでしょう。米国企業の利益になるということは、どういう面で現れるか明確ではありませんが、トータルでみれば、結局、日本の不利益になる危険は、相当程度あると考えるのが自然です。

 確かに敗戦直後から、アメリカは本当に日本を親身になって見てくれた部分があったと思います。だから、私を含め日本人の多くはアメリカを好きになったのです。しかし、規制緩和の行き過ぎ等によるアメリカの中流層の崩壊と格差社会の進展、マネー資本主義に見られるような節度無き強欲の蔓延など、アメリカも大きく変わってしまった部分があります。

 現実をよく見て、本当に法曹(特に弁護士)の爆発的増加が日本に必要なのか、何となく増加が必要な気にはなってはいるが、それは誰かの意向に乗せられているだけではないのか、冷静に判断する必要があるように思います。

(この項、終わり)

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