余計なお世話??~その2

 そもそも、ACCJが在日米国商工会議所であることから、さぞかし、日本の弁護士が少なくて採用できないなどの不利益が、在日アメリカ企業にあるのだろうと思って意見書を読んでみました。

 お読みになった方はお分かりかと思いますが、実際に法曹不足でACCJ加盟企業が不利益を被ったなどという理由は一切書かれていません。

 ACCJの主張の根拠を、もう少し詳しくあげてみると、①司法制度改革審議会が国民の需要に応えるために2010年までに新規法曹を3000人とするといい、閣議決定をしたではないか。そのために、法科大学院が設立されたではないか。②日弁連の2008年7月18日の緊急提言は根拠がない。③新規法曹に質の高い研修機会は可能である具体的には、法律事務所による研修、刑事裁判制度による研修が可能である。④弁護士以外の企業法務部・裁判官・検察官などになる弁護士の数が増大しているから法律専門職の空白を補うため(坂野注:弁護士が不足しているという趣旨か?)新規法曹の数は増加させなければならない。④日本における訴訟処理の速度が遅いため裁判官・検察官の増員も必要で、それに備えて新規法曹の増員は必要である。⑤実際には、東京・大阪以外では弁護士数は不足している。司法過疎は改善されていない。⑥諸外国と比較して弁護士数が少ない。というくらいになるでしょうか。

 順次反論していきます。

 まず、①についてですが、法曹人口増大論者がよく閣議決定を持ち出して、新規法曹を2010年までに3000人にするという決定がなされていると主張します。ではその閣議決定を見てみましょう。

http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/keikaku/020319keikaku.html

これが、3000人を決定したとして引用される閣議決定です。

問題の箇所は、

Ⅲ 司法制度を支える体制の充実強化
第1 法曹人口の拡大
の部分に出てきます。

 確かに、「平成22年頃には司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す。」と書かれていますので、一見すると3000人は決定事項かと思われます。

 しかしこの閣議決定を良く読まれれば分かりますが、きちんと決定した事項については(実行できたかどうかはともかく)「所要の措置を講ずる」「必要な対応を行う」と明確に実行を断言しています。例えば、法曹人口の大幅な増加という項目で「平成14年に1200人程度に、平成16年に1500人程度に増加させることとし、所要の措置を講ずる」と記載されていますので、この部分については閣議決定で決まっていると言われても仕方がないでしょう。

 ところが新規法曹人口3000人の部分についての表現は、実行を断言する表現とは明らかに異なり、「目指す」となっています。
 あくまで「目指す」という努力目標でしかありません。決定した事項ではないのです。

 更に詳しく見てみると、司法試験合格者3000人を目指すという文章の前に、「今後の法的需要の増大をも考え併せると、法曹人口の増加が急務となっているということを踏まえ」と書かれた部分があります。このように、法曹人口の増加は、法的需要が増大することがまず前提だったのです。しかし、司法統計をご覧になれば明らかですが訴訟案件は微増ないし減少レベルに止まり、法的需要が増大するという前提は大きく崩れています。しかも、大阪弁護士会某会派の方のお話によれば、現在地裁訴訟案件の55%が過払い金訴訟だということです。つまり、通常の民事事件は大幅な減少傾向にあるのであって、一般国民の間で、法的需要が増大しているとは到底言えない状況にあるというべきでしょう。

 また、「法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年頃には司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す」とも書かれています。新司法試験委員会の採点に関する報告などを読むと、もっと基本的な知識を習得させるべきであるという意見が多く上がっているなど、決して法科大学院制度が成功している制度ではないことは明らかです。

 以上述べたように、2010年3000人というのは、あくまで「目指す」という努力目標です。また、目指すとしても法的需要が増大する前提が満たされ、法曹養成制度の整備の状況を見定めた上での話です。法的需要が増大せず、法曹養成制度の整備も不十分である現状では、増員努力目標の前提が完全に崩壊した状況にあると言えましょう。前提が崩壊している以上、努力目標であった2010年3000人の目標も修正されるのが当然です。

 繰り返しになりますが、閣議で決定されているのはあくまで、「平成14年に1200人程度に、平成16年に1500人程度に増加させることとし、所要の措置を講ずる」点までであり、それ以降ないしそれ以上の増員については、なんら決定されていないのです。

 「閣議決定で、平成22年の司法試験合格者3000人が決まっている」という主張は、誤解か、自分に都合良く閣議決定を読み替えた曲解なのではないかと私は考えています。

(続く)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です