キッチンで寝るはめになったと簡単には書いたが、S弁護士も簡単に寝たわけではない。
まず、薬箱に、幸い、肩こり・腰痛に効くという漢方の痛み止めがあった。それを服用したのだ。
成分表には、他の成分に混じって地竜エキスと書いてある。地竜とはミミズのことだ。初めてそのことを知ったとき、もう漢方なんて飲まないと思ったものだ。だがこの非常時にミミズだろうが何だろうが、なりふり構っちゃいられない。
ところが、薬を飲むために顔を上に向けようとすると、またもレベル7~8の痛打がくる。顔を上に向けるためにさえ腰を使っているなんて初めて知った。それでも頑張って、顔を僅かに上に向けることができた。痛みに耐えてなんとか水を少し口に含み、漢方の痛み止めを一気に流し込む。
頼む!少しでも効いてくれ!
しかし、次の瞬間S弁護士に聞こえたのは、「う」という自分の声だった。
漢方薬は、粉末ではあったが、水に溶けるものではなかった。しかも、今さら悔やんでも遅いが、痛みに妥協して口に含んだ水の量が少なすぎた。その結果、全ての粉末を流し込めなかった。つまり、漢方薬の一部がノドの奥に張り付いてしまったのだ。
咳をすれば激痛必至だ。「止めろ止めるんだ!」頭の中で必死に身体に指令を送る。
・・・しかし、人間の身体とは馬鹿なものである。どれだけ脳が咳を止めよと命じようが、現に痛みを感じていようが、しなくても良い咳と、いま目の前にある腰痛のどっちが大事か判断がつけられないほどの大馬鹿野郎である。
咳が、腰も使った全身運動の一つであることだけは、痛いほどよく分かった。
(続く・・・かも)