民事事件で、相談者の方が、「証拠は何一つありませんが、真実は私が言っているとおりです。相手は嘘を言っています。だから裁判官はきっと分かってくれるはずです。」と仰る場合があります。
おそらく、その相談者の方のように、「裁判所は、本当のことを見つけてくれて、きちんと正しい判断をしてくれる存在なのだ」と信じておられる方も結構いるのではないでしょうか。
しかしそれは誤解と言わざるを得ません。
裁判所が、ドラえもんの魔法の鏡を持っていて、磨けば事件当時の状況を間違いなく映し出してくれるのであれば、裁判所が真実を見抜いて判断することも可能でしょう。しかし、実際はそうではありません。お互いの言い分が食い違っているから裁判になっているはずですし、その紛争の起きた時点で、真実はどうだったのかを、誰も実際に見て確かめることは出来ないのです。
非常に簡単に言えば、裁判所は、当事者が提出した証拠のうち、どの証拠が信頼できるか判断し、その信頼できる証拠からどのような事実があったのかを組み立て、その組み立てた事実に法律を適用して、どちらの言い分が通るのか、判断を下します(その他、立証責任という問題もありますが難しくなりますのでここではふれません)。
したがって、証拠がなければ、裁判所としては事実を組み立てることも出来ません。証拠がなければ非常に裁判を戦うことは困難になります。
ときに、私達も、「この人の言っていることは、おそらく本当だろう。しかし、相手に有利な証拠はたくさんあるが、こちらに有利な証拠は何一つ無い。」という状況に、苦労することもあります。そのような状況を、ひっくり返すことは、極めて困難です。
したがって、「裁判は真実を明らかにしてくれるのか?」という質問に対しては、「みんながそれを目指しているが、残念ながら限界がある。」というお答えしかできないのが正直なところではないでしょうか。