マスコミの取材

 先日、私が当事務所の久保弁護士と共同で弁護した、ある刑事事件の判決があった。

 残念ながら、執行猶予のつかない判決だった。

 判決言渡し後、裁判所から出ようとする私に対して、新聞数社より事件について質問等があった。申し訳ないのだが、私は、大きな民事事件で勝訴した際の記者会見とは異なり、質問に具体的に答えることはしなかった。 第一次的には弁護士には依頼者のための守秘義務があり、刑事事件に関する質問は、私に弁護される立場にある被告人の微妙な情報に触れる危険性が高いからである。

 もう一つ理由がある。確かに被告人は、犯罪を犯してしまった。それは許されないことではあるし、被告人はその犯罪の責任は取らねばならない。しかし犯罪とは全く無関係で、被告人の帰りを待つ家族・親族もいる。自らは何も悪くはないのに、被告人の帰りを待ち望み、被告人の与えてしまった被害回復のために、それこそ、必死に活動される家族・親族の方もいるはずだ。

 そのように必死に努力してきたかもしれない方々が判決を聞き、非常に落胆している状態であろうことを知りつつ(又は知り得べき状況で)、判決についてどう思うか、控訴するのか、控訴理由はどうするのだ等と判決直後の公の場で質問するのは如何なものかと思う。

 確かに、読者や国民の知る権利に奉仕する観点からマスコミが取材しようとするのは分かるし、何の取材もせずに判決だけから憶測混じりの記事を書かれるよりはマシのようにも思う。

 それに、マスコミの方がこのような取材を弁護人に行うということは、これまで弁護人がマスコミの取材に応じてきてしまったという前例があるからなのだろう。もちろん、被疑者・被告人が情報を発信して欲しいと願っているのであれば、守秘義務に反しない限度で弁護人が情報をマスコミの方に流すことはあるかもしれない。しかし、私がテレビなどで報道を見聞する際に、果たして本当に被疑者・被告人が情報を流して欲しいと希望しているのか疑問の余地がある場合でも、弁護士が情報をマスコミに提供してしまっているのではないかと思える場合もある。

 この点では、刑事弁護を担当する弁護士の側にも反省すべき点があるのかもしれない。

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