法科大学院の不適合

 先日、いくつかの法科大学院が不適合であると、認証期間から指摘されたというニュースが流れていました。法科大学院を厳正に評価するための機関が、いくつかの法科大学院に問題があると指摘したということです。

 その内容は、朝日新聞社によると、「京都産業大では、理解が不十分な学生向けの「補講」などで授業時間が実質的に上限を超えていたほか、出欠をとらない授業もあった。東海大は、単位数に含まない「自主演習」の形で司法試験に出題される基礎科目を教えており、「基本的な制度設計に誤りがある」と指摘された。山梨学院大は、定期試験の不合格者が受ける再試験に全く同じ設問を出すなどの問題があった。」とのことのようです。

 山梨学院大学の措置は、再試験にも全く同じ問題を出すなど、答えを教えて再試験をするようなものです。厳格な修了認定という法科大学院の建前からすれば、極めて大きな問題を残すので、やはり問題でしょう。

 しかし、私から見れば、京都産業大・東海大はなぜ不適格なのか若干疑問があります。理解不足の学生に補講を行うことは授業時間が多すぎる、基礎科目を自主演習として教えたことは司法試験対策だから問題がある、というのが不適合の理由のようです。

 学生の自主的勉強の時間を取るために法科大学院では講義時間(単位)の上限を定められているようですが、理解不足の学生に教えることは理解不足の学生が自主的に勉強するよりも効率的なはずでしょう(もし学生の自主的勉強の方が効率が良いのであればそもそも法科大学院は不要なはずです)。また、法科大学院の目的は質の良い法律家を育てることだったはずですから、学生の自主的な勉強時間を確保しても法律実務家としての力が身に付かないのであれば意味がありません。学生の自主的勉強の時間が減少しても、法律実務家としての実力が身に付けば良いはずです。質の良い法律家を育てようという目的のために、法科大学院という手段を作ったものの、今では、法科大学院という手段を維持することが目的となってしまい、質の良い法律家を育てるという、そもそもの目的が見失われているとしか思えません。

 また、日弁連法務研究財団の法科大学院評価基準によると、法科大学院として適合するためには、「授業科目が法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の全てにわたって設定され、学生の履修が各科目のいずれかに過度に片寄ることのないように配慮されていること。」とされており、法律基本科目とは、憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法に関する分野の科目をいう、となっています。いずれも新司法試験に必要な科目です。

 しかし、法律基本科目を身につけるだけでも大変です。よほど大学在学中に勉強した人や、異常に頭の良い人をのぞけば、法律基本科目を司法修習に耐えうる程度まで理解するだけでも、3年くらいかかってもおかしくありません。数学や物理に早熟の天才は存在しますが、法律学には早熟の天才がいると聞いたことがありません。このように法律を学ぶには、才能よりも、努力や積み重ねが重要なのです。
 法律解釈の基礎や民事法・刑事法の基本を理解していれば先端科目はその応用で対応できる場合がほとんどです。しかし、民事法・刑事法の基本が理解できていないうちから先端科目を教え込まれても理解不能です。
 それにも関わらず、適合基準を守ろうとすれば、法科大学院では法律実務基礎科目や、基礎法学、先端科目まで履修を求められるのですから、掛け算・因数分解も十分理解していないうちから、微分積分をたたき込まれるようなものです。

 民事法・刑事法の基礎ができているが先端科目は知らない新人弁護士と、民事法・刑事法の基礎はあやふやだが先端科目の知識を少し持っている新人弁護士とでは、実務家として明らかに前者の方が優れています。いざというときに基本に戻って考えることができるからです。

 (詳しい事情は不明ですが)善意に解釈すれば、京都産業大・東海大は法科大学院生といえども、その実力不足に驚き、「良い法曹を育てるためには基礎を十分教えておく必要がある」との強い懸念を持って、法律基本科目を身につけさせようと努力していたと言えるのかもしれません。

(続く)

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