日経新聞 法務インサイド

 本日の日本経済新聞朝刊「法務インサイド」のコーナーで、鳩山法相と第2東京弁護士会の久保利弁護士が法曹人口問題などについて対談を行っています。

 詳しくは日経新聞をお読み頂くとして、私個人の感想を言わせて頂くと、「久保利弁護士の御主張の根拠はいったい何なのか教えて頂きたい」というものです。

 久保利弁護士は、鳩山法相が「基礎、基本を全く知らない人がいると司法研修所の人が驚いています。基本がなくては活躍もできないと思いますよ。」と質の低下について危惧した発言をされたのに対し、「一定のレベルは必要ですが(中略)法律学の知識だけでは良い法曹にはなれません。研修所を出てからのトレーニングで伸びていくわけです。」と若干かみ合わない反論をされています。

 鳩山法相は、法律学の知識だけが必要だとは述べていません。いま、現に基礎・基本が解っていない修習生が出現するほど質が落ち始めていると主張しているのです。

 また、久保利弁護士の言われるとおり研修所を出てからのトレーニングで伸びるとしても、現在司法修習生の弁護士事務所への就職難は、非常に深刻です。先輩弁護士に付いて、トレーニングを受ける機会すら保証されない新人弁護士が多数出現する可能性が高いのが現状でしょう。この危険を久保利弁護士はどうお考えなのでしょうか。久保利弁護士がきちんと教育をされるおつもりなのでしょうか。

 更に言えば、久保利弁護士はこれまで、ご自身で採用されてきた弁護士を教育されてきたのでしょうが、それは今までの司法試験を突破した弁護士であり、基礎・基本にあまり問題が出ていない弁護士であったと思われます。もしその次に久保利弁護士が採用した弁護士が基礎・基本がきちんとできていなかった場合、久保利弁護士といえども、きちんと教育できるかどうかは未知数でしょう。

 久保利弁護士の御主張どおり今後も弁護士の数を増やしていけば、、基礎・基本が解っていない弁護士が先輩弁護士からトレーニングを受けることなく(久保利弁護士の御主張によれば「一人前の法曹として伸びる機会もなく」、ということになるのでしょうね)、依頼者の事件を実際に処理しなければならなくなる場合が明らかに生じます。そのような危険な行為を放置しようと言うのでしょうか。

 また久保利弁護士は、弁護士の数について、「完全に不足。弁護士は2万5千人しかいません。足りているというのは全く目が曇っています。」とまで御主張されます。

 それでは、なぜ、新人弁護士の就職難がここまで深刻なのでしょうか。弁護士が不足なのであればどこの事務所でも新人弁護士が欲しくてたまらないはずです。それに、あれほど過払バブルといわれ、過払い金返還訴訟が激増しているといわれていながら、司法統計によれば、訴訟の数が減少傾向にあることは何故なのでしょうか。 司法統計が誤っているのでしょうか。

 私には久保利弁護士の御主張の根拠がどうしても理解できません。

 さらに、久保利弁護士は「戦前、陪審裁判をやっていました。今の日本人にできないのなら、劣化しているということです。」とも述べておられます。

 確かに戦前である1923年に陪審法が制定され、陪審制度が導入されたた事実はありますが、辞退者が相次ぎ、第二次大戦中に停止されています。

 久保利弁護士の御主張は、誤りではないでしょうが、陪審裁判が刑事事件一般にあまねく行われていたかのような印象を与える点でミスリーディングな発言だと思います。

 大きな影響を与えるマスコミでの発言ですから、紙面の都合もあるのでしょうが、もう少し根拠をわかりやすく、また誤解を招きにくい表現で説明して頂きたかったと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です