法科大学院志願者減少

 本日の主要新聞朝刊に、法科大学院の志願者が減少していることが報道されています。

 法律家を目指す方が減少し、優秀な方を法曹界に導くことが難しくなってきた傾向が顕著に表れ始めたのです。

 法科大学院制度の欠陥と合格者大量増員から、当然の結果というべきでしょう。

 この点、文科省は「新司法試験の合格率の低さが影響しているのではないか」と分析しているようですが、文科省が管轄する法科大学院をかばうためのまやかしに過ぎません。

 どんなに合格率が低くても、法律家が魅力的な仕事であれば志願者は増えます。昔の司法試験は合格率が2~3%でしたが、 試験制度をいじくった時を除いて原則として志願者の増加傾向は変わりませんでした。

 新司法試験は、合格率が旧司法試験から10倍以上に跳ね上がり、極めて合格しやすくなりました。それにもかかわらず新司法試験に挑戦し、法律家になろうとする人が減っているのです。

 これは、合格者の大量増員により職業としての魅力が失われてきたということが最も大きな原因です。つまり、無計画に合格者を増員した結果、新人弁護士の就職難が次第に報道され、合格者の大多数の進路となる弁護士の資格を手に入れても、食えない危険が高まったからです。

 そもそも、弁護士の仕事自体は、直接人の法的トラブルを解決するという点において、医師にも匹敵するくらい、人のお役に立てる場合がある職業です。仕事自体のやりがいは十分あります。

 しかし、その仕事が今後食えなくなっていく可能性が高い仕事であった場合、志願者は増えるでしょうか?どんな人であれ、仕事をして食べていかなければなりません。家族を養う必要もあります。それにも関わらず、いくらやりがいがあって、合格率が昔の10倍以上になったとはいえ、高いお金を出して法科大学院に進学しなければならず、既に就職できない者も存在しているのに、更に増員され、将来確実に過当競争になる仕事を目指す人が増えるでしょうか。

 答えは明白です。

 また、旧司法試験は学歴は一切不問でした。義務教育しか受けていない人であっても会社務めをしながら独学で勉強し、司法試験に合格しさえすれば法律家になることができました。しかし、今の法科大学院制度は、原則としてまず大学を卒業する必要があり、次に法科大学院に進学し卒業しなければならず、さらに合格後の司法修習も自費で行わねばならなくなります。お金のない人は非常に多額の借金をして法律家を目指さなければなりません。

 富裕層の子弟であれば、学費はそう心配いらないでしょうから、合格率が上がったというメリットだけを享受できる制度です。しかし、そうでない方にとっては非常に法律家になることを困難にする制度、それが法科大学院制度なのです。

 さらに、文科省の責任として、法科大学院自体をあまりに多数認可しすぎた事実があげられるでしょう。もともと法科大学院制度は、①多数の志願者から厳選された法科大学院生をきっちり教育し、②厳しく卒業認定をし、③その卒業できた者を合格率の高い新司法試験で最終的に選抜するという計画だったはずです。

 ところが、各大学が法科大学院を売り物にして学生を呼び寄せようと考え、文科省が無計画に認可をしたため、多数の法科大学院が乱立することになりました。そのため、たいした競争もなく法科大学院に進学できるようになり、①の多数の志願者から厳選されるという第1段階の競争が全く働かなくなりました。また、あまりに多数の法科大学院が乱立したため旧来の司法試験合格者レベルすら知らない学者教員が、学生を教育することになり、どのレベルまで教育すればいいのかわからない状態で見切り発車したのです。

 さらに、②の厳しく卒業認定をするという第2段階の競争も有名無実化しています。日弁連法務研究財団に対する司法試験委員会のヒアリングによっても次のような指摘があります。

 ・例えば、学生のうち、3分の1くらいは箸にも棒にもかからないという先生が多い。にもかかわらず不可の比率が多くないということはかなり問題なのではないかなという気がする。

 ・新司法試験の考査委員からヒアリングを実施したところ、基本的理解ができていなかったというような指摘があった。

 結局、これまで大学で多数落第させる文化がなかった日本では、本来出来の悪い学生を落第させなければならない法科大学院でもその文化的影響を受け、落第させることができなかったということです。つまり、②の厳しく卒業認定するという、第2段階の競争も実質上は無意味となっているということです。

 ③に関していえば、次のように言えます。本来、①の法科大学院の入口で、次に、②の法科大学院の出口で、競争で勝ち抜いたものだけが受験できるはずであったのが新司法試験でした。しかし、①・②の競争が実質上あまりに緩やかで殆ど競争させなかったため、受験者数が増加し、結果的に合格率が下がったということなのです。それは、文科省の無計画な法科大学院認可と相俟って、当然生じた結果なのです。

 つまりこの新司法試験の合格率の低下は、無計画な法科大学院を認可した文科省と、きちんと教育・卒業認定をしなかった法科大学院が自ら招いた失敗です。

 ところが、文科省も法科大学院も自らの失敗を認めようとせず、合格者を増やせば解決すると主張します。

 文科省や法科大学院のいうことは本当でしょうか?

 仮に、更に合格者が増えると、競争が緩くなるので、これまで何度も指摘してきたように更に合格者のレベルはダウンします。それはつまり信用できない法律家がどんどん世の中に出ていくということです。これからは、富裕層や大企業のように資力や調査能力のある資産家はその力でよい弁護士を捜せるでしょう。しかし、そのような手段を持たない一般の方々は、今までのように資格があるから大丈夫だろうと、弁護士を信頼することはできなくなります。

 そうなれば、更に司法に対する信頼が失われ、人々は司法制度を利用しなくなります。そうなれば、更に法律家は食うに困り、職業としての魅力は失われていきます。そうなれば、更に法律家を目指す人が減り優秀な人材が法曹界に来なくなります。そうなれば、優秀な法律家が生まれなくなるので更に司法に対する信頼が失われます。

 そうなれば・・・・・・・・・結局、得する人と損する人は明らかだと思います。

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