沈丁花

 先日家庭裁判所の、中庭で、ふと良い香りを感じました。沈丁花の香りです。

 名前こそ沈丁花(ジンチョウゲ)ですが、皆さんご存じのとおり、とても良い香りがします。キンモクセイの香りと並んで私の好きな香りの一つです。しかも、沈丁花は、全く予期していないときに不意打ちのように香ってくることが殆どですので、いつもいい匂いだなと思いながらも、「やられた。」という気にさせられます。

 なぜだか、沈丁花の香りに逢うと、少年の頃まだ寒い中、私の実家の裏にあるちいさな川で、友達とプラモデルの戦艦・モーターボートを走らせて遊んだ記憶がかなり鮮明に、よみがえります。他にも、沈丁花の香りと共にたくさんの経験があったはずなのに、きまって先ほどの記憶が勝ります。沈丁花の香りを初めて良い香りだと思ったときの記憶なのだと思いますが、相当印象が強かったのでしょう。

  音楽もそうなのですが、匂いも、ある記憶と結びつくと一体化してしまってなかなか分離できない場合が私にはあります。そのような記憶は他愛のない記憶であっても、なぜか懐かしい感じを受けてしまいます。その記憶が例え辛い記憶だったとしても、それでも、その頃の自分は幸せだったのだと、理由もなくそう感じてしまったりします。

 今は、その川も治水工事のために拡幅され、常に枯れた状態の川になってしまいました。もう、私達が遊んでいた頃の川の面影は、全くありません。でも、多分、来年も沈丁花の香りに触れると、昔の川の様子や川での遊びを、再び鮮やかに思い出すことができるに違いありません。

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