新司法試験考査委員へのヒアリング1(民法)

 昨年度の新司法試験を採点した、新司法試験考査委員へのヒアリングが、法務省のHPで公開されています。

 民法の考査委員からの発言について、次のような内容の発言がありました。

 ①合格すべき水準に達していない答案の割合が過半数を上回っており、実務修習を受けるに至る能力を備えていないような合格者が多数出てしまうのではないか、こういう厳しい意見も複数あった。

 ②事案の分析あるいはあてはめの能力が極めて弱い。

 ③長い問題文を丁寧に読むという出発点において、まだ十分な力がついていない者が多い。

 ④法科大学院では要件事実の基礎の教育が行われるべきものとなっているが、その点、やはり十分出来ていないように思われる。

 ⑤受験生が個人個人の頭の中で得た知識が十分ネットワーク化・体系化できていないということであり、従来から指摘されている論点主義的で、論点がバラバラに浮かんでいる浅薄な理解がまだまだ少なくない。

 ⑥答案のバランスが悪さが指摘できる。

 ⑦文章が箇条書きのようにぶつ切りで、論理に脈絡のないものもあり、また、誤字が非常に多かったり、極めて読みにくい略字を使ったり、あるいは走り書きになっている答案もあった。およそ他人に読んでもらう文章を書くという試験以前の常識にかけている答案が少なくないと感じており、このことは非常に大きな問題である。

 ⑧法科大学院に求めるものは、今、述べたことの裏返しになる。境界領域や発展的な問題の理解も大事であるが、それよりも、事案の分析力を磨き、基本的な理解を確実に得させることに重点を置くべきであろう。

 ⑨出題形式として大大問には限界があるという意見が、圧倒的多数といえないとしても、相当多数になってきている。

 民法は、基本中の基本であり、この理解なくしては法律家をやっていくことは出来ません。

 それなのに、実務修習に耐えられないような理解しかない者が多数輩出してしまうのが(①)、法科大学院といえそうです。また、論点主義を批判して出発したはずの法科大学院でも相変わらず論点主義的な学習しかできない者もいます(⑤)。なにより、基本的理解を確実に得させるべきであると酷評されている点は重大です(⑧)。少なくとも、旧司法試験では、基本的理解が欠けている者が合格する可能性は極めて低いものでした。何故なら競争率が高いので、基本的理解が欠けている者はどんどん落ちていったからです。

 この司法試験考査委員の話を見ると、少なくとも基本的理解が欠けている者が合格する可能性が低いだけでも旧司法試験の方が良かったのではないかと思われます。無論、旧司法試験の問題点について、後の質疑応答で述べられていますので、後ほど紹介することになると思いますが。

 何度も言いますが、法科大学院卒業の方でも上位の方は旧司法試験合格者と同等以上の力をお持ちだと思います。しかし、全体としてみたとき、実務修習にすら耐えられないような人材を輩出している法科大学院は、本当に優秀な法律家を産み出していると言えるのでしょうか?

(続く)

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