自然の美

 小さい頃、たまにですが、親に連れられて山に行ったことがあります。私の田舎は熊野地方にあり、かなり山深いので、結構見応えがあるようなのです。

 そこで、両親が私達兄弟に、「綺麗な山だね」等というのですが、その自然の美しさが小さい頃にはさっぱり、分かりませんでした。単に、裏山とそんなに変わるとも思えなかった私は、「へー、こういうところが美しいってことなのか」くらいにしか思わなかったような気がします。

 しかし、思春期のある時期、突然、自然の美しさが分かったような気がしました。

 おそらく、自然も私達と同じく滅びゆく存在であり、決して永遠のものではないのだと、これまた突然に気づいたのです。

 そういう気持ちで自然を見ると、自然のどの風景を見ても(見慣れた裏山ですら)、私達と同じ滅び行く運命にあり、そうでありながら何の文句も言わず、ただひたすらに、一生懸命に生きている仲間のように見えました。そのとき、自分の心がぐっと広げられたような感覚があり、なぜだか涙が出てしまったことを覚えています。

 思春期は誰もが非常に感じやすい心を持った時期であり、すでにその時期を過ぎ去った私が、そのような感じやすい心で、自然を見ることはもう出来なくなりました。

 しかし、時折そのような気持ちを思い出すつもりで風景を見ると、まだ少し心がざわつきます。

 あのころの、心を絞り上げるような感覚、痛いけれど懐かしい感覚を失ってしまった自分を、少し残念に思うときがあります。

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