センスを感じたTVCM

 何年か前の、JT(日本たばこ)のテレビCMに素晴らしい出来映えのものがありました。

 確か、田舎の古い家屋の軒下で、喪服を着た、老婆と豊川悦司が立っている。雨が降りしきる中、老婆が豊川悦司のたばこにそっと火をつけてあげる。というCMです。

 音楽はたぶん流れておらず、降りしきる雨の音と豊川悦司が最後に一言、「さよなら」という台詞をいうだけだったと思います。

 しかし、わずかそれだけのCMであるにも関わらず、様々なことを想像させてくれるCMでした。二人の喪服は誰のためのものなのか、二人の関係はどのようなものなのか、「さよなら」というトヨエツの台詞は何に又は誰に対する「さよなら」なのか。なぜトヨエツはたばこを吸わなければならない心境になったのか。またそれを察して火をつけてあげる老婆の思いと彼女の人生はどうだったのか・・・・・。

 「さよなら」という言葉しか出てこないのに、見ていた人それぞれに、きっとこんな状況なんだろうなと自然に物語をつくらせてしまう、そしてその物語はおそらく悲しいけれど決して未来を否定するものではない物語になるだろうと思わせる、そんな美しいCMでした。

 最近のテレビCMは、うるさいBGMと商品の一方的な押しつけが多いのですが、ほとんど印象に残りません。わずかな時間で印象を与えるためには、押しつけるのではなく、相手に自ら想像する余裕や時間を与えるほうが有効なのかもしれません。

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