回答を逃げた日弁連会長

私と加藤弁護士が、日弁連会長宛に質問状を出したことは11月9日付のブログに記載しました。

 その質問状に対する回答が届きましたので、書式は若干ずれるかもしれませんが、内容は一切手を加えずに、そのままで掲載します。

(以下回答書)

                                                                                                      2007年11月15日

弁護士  坂 野 真 一 殿
弁護士  加 藤 真 朗 殿

 貴殿らの平山会長宛質問状が、11月8日に日弁連に届きました。
 ご質問事項に関しては、今後の理事会その他の説明において会長が留意させていただくこととしておりますが、会員個人からのご質問に関しては、会長として個別の応答はしないこととしております。おたずねの事項に関しての平山会長の基本的な考え方は、本年9月及び10月の日弁連理事会冒頭の会長挨拶の中で述べられており、日弁連ホームページの会員ページに「理事会報告」として要旨が掲載されていますので、ご覧頂ければと存じます。また、本年11月30日の近畿弁護士会連合会大会の意見交換会において、この問題が検討される予定であることをおしらせいたします。
 なお、平山会長は、いただいた質問状について「熱心に研究され、検討されていることに敬意を表します。」と申していることをお伝えいたします。

                                        日本弁護士連合会
                                               事務総長 明 賀 英 樹

(回答文ここまで)

 そして、会長の基本的考えとして参照するように指示された会長挨拶について、私たちの質問と関連する部分を次に抜粋します。

(第6回理事会議事録概要(2007/9/13・14開催 速報)から抜粋)

(前略) 日弁連は平成12年11月臨時総会で、社会の種々の分野で、国民が必要とする数の法曹を質を維持しつつ確保すると決めた。その際、日弁連は数字は示していない。政府の閣議決定では、平成22年ころ3000人という目標が示された。そのことを尊重し達成のために全力を挙げてきた。急激な増加によって様々な問題が生じつつある。いったん目標が達成された後は、ニーズの充足度、質の維持を検証して、以後について検討すべき。昨年から検証を開始している。弁護士過疎・偏在問題が解決されたら、その後の法曹人口のあり方について、政府に方針変更を求めていきたい。新旧60期の就職問題の解決が第一、過疎偏在の解消に全力を尽くす。 (中略) ニーズの検証を行いつつ、あらゆる分野での業務拡大を図る。質の検証については、新法曹の活動状況を検証していく。これらのことをやれば「これ以上はだめだ」とか、「漸減しなければだめだ」ということを、我が国の人口減少も踏まえて、今後の方針としていくことができる。(後略)

(第7回理事会議事録概要(2007/10/23・24開催 速報)から抜粋)

(前略) 中国弁連は、子供の権利条例の制定を目指してシンポがあり、また司法試験合格者についての議題があった。中部弁連は、裁判員制度の評議方法についてのシンポがあり、適正な弁護士人口に関する決議があった。 (中略) しかし、まだ、法科大学院は2004年にスタートしたばかり、すぐにやめるのかと言われないように。新しい司法制度を完成させるために頑張っていく。2010年(平成22年)ぐらいが大きな分かれ目になる。きちっと、規制改革会議にも言える。実力はこうです。これ以上は無理ですという資料が集まる。その前に政府が資料を集め、もう十分だよと言われればそれでも良い。国民に約束した司法制度改革は緒についたばかり。自らこれをやめたとは言えない。地方ではそう言う実情があるのかもしれない。質が落ちたのかもしれない。大きな司法、法曹養成制度を10年も経たないうちに変えるのはどうかと思う。 (後略)

 ここからは、私の感想ですが、結局日弁連執行部は、3000人増員ありきで、3000人の目標を達成したら、そこから弊害を検討しようという立場に近いように読めます。また、明らかに法科大学院出身の司法修習生の全体のレベルが低下しているにもかかわらず(司法研修所教官がそう述べているのだから間違いないはずです)、すぐにやめようとは言えない立場なのだそうです。

 日弁連執行部は、たとえて言うと『気象専門官も含まれ、現地の気象条件もよく知る乗客たちが「ここ数年ひどく冷え込むので、こんな北の航路を行くと、確実に氷山に遭遇するから危険だ」と騒いでいる中、「平成12年に一度決めたので、その北よりの航路は変更しません」と言い張る船長や航海士』のようです。「事情がどう変わろうと、とにかく一度決めた進路を取り、氷山にぶつかったら考えよう」ということのようです。

 氷山にぶつかった後の船は沈没が避けられません。奇跡的に沈没を免れても大きな損傷を受け、その後の航海が安全に行われるとは到底思えません。氷山に衝突してからでは遅いのです。氷山に衝突する危険が分かっているのであれば、最初の決定にとらわれることなく、進路を正しい方向に取るべきだと思います。

 過ちを正すのに遅すぎることはないのと同じく、早すぎることも、またないと思います。弁護士不足をしきりと喧伝していた経済界も弁護士の採用はわずかです。

 「結局、弁護士がいたら便利だと思って弁護士不足を言ってみたものの、いざ雇用するとなれば費用がかさむのでやめておこうと、経済界にウインドーショッピングされただけではないか」、と私の知人である企業内弁護士も言っていました。その弁護士によると、今後も爆発的に増加する弁護士人口を吸収するだけの企業の雇用は到底見込めないそうです。このように、当初3000人を決めた際の状況と現状は全く異なっています。現実の変化に目を背け、とにかく決まり事だから守っていこうというのは愚か者の選択といわざるを得ないでしょう。

 法曹の質を維持しながら法曹の数を増加させる方法として法科大学院が失敗であるのなら、直ちにやめるべきでしょう。法律家の質を維持できないのであれば、法律家ひいては司法へ対する国民の信頼を失います。国民の信頼を一度失ったら、もはや回復は不可能と考えるべきでしょう。その責任は一体誰が取るのでしょうか。

 日弁連は直ちに法科大学院教員及び、司法研修所教官から忌憚のない意見を集め、法曹の質の維持ができていないことを明確に指摘すべきです。弊害が出てから対処するのは遅すぎるのです。弊害が出ること自体が司法への信頼を揺るがせていることなのですから。

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